【現場から、】台風19号災害

2019年11月21日【岩手発】
津波対策の堤防で浸水被害拡大か

岩手県の山田町では、東日本大震災後に建設された住民を守るための堤防が台風19号による豪雨被害を拡大させた一因と指摘されています。

台風19号が過ぎ去った先月13日の朝。岩手県沿岸の山田町田の浜地区は辺り一面、茶色く濁った水に覆われていました。住宅の1階部分はほとんどが水没していました。田の浜地区の被害をここまで拡大させた一因とされているのが、津波から町を守るために整備された堤防です。

「ここに水が全部集まって、排水できなくなってダム状態になった。ここはいったん壊してもらわねば」

東日本大震災のあと、山田町は、この地区に震災で発生した大津波と同じ程度の津波を防ぐことができる堤防を整備しました。「田の浜地区防災緑地公園」と名付けられ、去年完成。普段は公園としても利用されていました。

「ここには流れてきた雨水を排出する設備がありましたが、流木や土砂が詰まったことにより、その機能が失われました」(記者)

台風19号による豪雨の際、堤防の地下を通る4本の排水管のうち、2本に土砂や流木が詰まり、山から流れ込んだ雨水が行き場を失った結果、浸水被害が拡大したのではと住民は主張しています。

豪雨災害からおよそ1週間後、町は浸水被害にあった世帯のために、東日本大震災のときに建設された仮設住宅を開放しました。入居者の一人、田畑實さん(89)です。堤防のそばにあった自宅の1階に水や泥が流れ込み、天井近くまで浸水しましたが、妻・由貴さんと2階に避難し、一命を取り留めました。

田畑さん夫婦の自宅は東日本大震災の津波で被災し、およそ6年前に再建したばかりです。やっとの思いで取り戻した自宅での生活を再び災害によって失いました。

「前は津波で海から来たけれども、今度は山から来た。何も悪いことしていないんだけれど」(台風後 仮設住宅で暮らす 田畑實さん)

緑地公園の堤防の排水能力について、町は過去のデータから1時間に55.7ミリを想定し、整備を進めました。しかし、台風19号で山田町の降水量は1時間あたり最大77.5ミリに上りました。

「想定外という言葉は使いたくありませんが、雨量は想定以上だった。なぜこのようなことが起き、今後なくすための検証委員会を立ち上げて、皆様に納得いただける説明をする責任が町にはある」(山田町 佐藤信逸町長)

山田町は住宅が被害を受けた世帯に対し、独自に最大100万円の支援金を支給することを決めました。しかし、田の浜地区には、いまだ片づけに追われ、住宅再建のめどが立っていない世帯が多くあります。津波防災のインフラが被害拡大の原因になった可能性…。「やるせない」では片づけられない現実が突きつけられています。

- 取材後記 -
「津波対策の堤防で浸水被害拡大か」
IBC岩手放送 太野大樹 記者

今年の台風19号では、岩手県で初めて大雨特別警報が発表され、その被害も非常に大きく、広範囲にわたりました。報道歴1年目の私にとって、初の災害取材。先輩方からアドバイスを受けながら、必死で被害のあった地域を取材しました。

そんな中、台風19号の通過からおよそ1週間後、私は山田町・田の浜地区へ行きました。そこは取材した当時も水に浸かった家財を運び出したり、たまった泥を洗い流したりと復旧作業を続けている状況でした。その時、「取材を続けていては作業の邪魔になってしまうのではないか、一緒に手伝うべきではないか」と正直、思いました。

しかし、住民の方から話を聞く中で、被害にあってしまい、泣きたい気持ちがあるのをぐっとこらえ、懸命に復旧作業をする姿や、それを手伝う全国から集まったボランティア、行政に対する不満(田の浜地区の被害は町が設置した堤防が被害を拡大させた一因と言われている)などを目の当たりにしました。この姿や気持ちというのは自分たちが発信しなければ誰に届かずに消えてしまう、と感じたことを今でもはっきりと覚えています。

私たちマスコミはそこでしか見られないものや声なき声を拾い集め発信していくことが使命です。今、現場はどうなっているのか、それをひたむきに伝え続けていきたいです。