【現場から、】台風19号災害

2019年11月1日【静岡発】
浸水避難の“盲点”、津波対策生かせず

静岡県焼津市では高齢者の福祉施設が浸水しました。巨大地震を想定し津波対策は完ぺきだったはずですが、台風での避難には意外な弱点がありました。

「ひざ下まで冠水しています。こちら交差点だと思われますが、一面水浸しです」(記者)

台風19号で743棟が水に浸かった静岡県焼津市です。

「運動器具ですけれど、水害にあった。文書関係も」(特別養護老人ホーム「つばさ」奥川清孝施設長)

福祉施設も被害を受け、床上20センチまで浸水しました。電気系統が壊れ、介護に使う器具も水浸しになりました。

「とにかく水との戦い。なかなか水を防ぐのは難しい」(奥川清孝施設長)

施設は海の側にあり、南海トラフ巨大地震に警戒し、津波への対策を進めてきました。屋上につながる避難階段を整備し、毎年、地域の人たちの助けを借りて避難訓練をしています。今回の台風でも職員を多く配置し、いつでも逃げられる準備をしていました。しかし…。

「9人の利用者が生活するこの施設の1階部分には、さまざまな場所から水が流れ込みました。そして利用者の全員が自力での避難が困難な方々でした」(記者)

94歳の岡本美子さんは職員と2階に避難しました。

「こんなに浸水すると分からなかった」(岡本和子さん)

全員無事でしたが、避難を始めたのは浸水が始まった後でした。

「今回は高潮と満潮が重なって、短時間で急激に水位が上がった。対応が間に合わなかった」(奥川清孝施設長)

地震ならば、津波を警戒し、迷わず避難すると決めています。しかし、今回の台風ではその決断ができませんでした。

「今回の台風の水害では、参考になった点もあるし、改めて課題が出てきた」(奥川清孝施設長)

事前に来ることが分かっている台風でスムーズに逃げることができなかったのに、地震や津波のとき、本当に避難ができるのか。改めて、避難の難しさに気づかされた災害でした。

- 取材後記 -
「浸水避難の“盲点”、津波対策生かせず」
静岡放送 和田啓 記者

ともすれば、施設のマイナスイメージにつながるかもしれない浸水被害の取材。私たちを受け入れてくれた施設長やスタッフからは「利用者の命を救うために被害を見つめなければいけない」という覚悟を感じました。

地震や津波と同様、豪雨災害も素早い避難の判断が求められますが、空振りの場合、高齢者の身体への負担も大きくストレスも計り知れないものがあります。「果たしてこの避難は有効なのか、何事もなければ無駄ではないか」そう考えてもおかしくありません。

実は、南海トラフ地震でも同じ心理が働くおそれがあります。南海トラフ地震が西日本で先に起きて、静岡県を含む東側の地域でも巨大地震が起きる恐れが高まったとき、気象庁が発表するのが「臨時情報」です。国は津波の危険地域などに臨時情報が発表された場合、1週間の事前避難を呼びかけますが、臨時情報は確実な予知ではなく、次の大地震が起きる確率は高くても10%程度です。被害がない段階で大変な準備をして事前避難ができるのかは未知数です。

災害の種類は違えども、根底にあるのは「勇気をもって避難の判断ができるのか」という課題です。より具体的な場面をイメージした訓練が求められるのと同時に、報道する私たちもより深い視点が必要だと感じました。