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TBS NEWS

2021年12月2日

今週の注目「タカ派に変身!FRBパウエル議長」

[ TBSテレビ報道局 上席解説委員 播摩卓士 ]

世界各地で感染力の強いオミクロン株の感染者がみつかり、景気の先行きを心配する声が上がる中、アメリカの中央銀行であるFRBのパウエル議長が、30日議会証言で、インフレリスクがより高まっているとして、量的緩和の縮小ペースを加速させる考えを表明しました。消費(需要)の減退予想から、原油価格が1バレル10ドル以上も急落するなど、多くの人が「利上げは遠のいた」と直感したにも関わらず、なぜパウエル議長は逆の方向を目指しているのでしょうか。

この議会証言の中でパウエル議長は、オミクロン株によるコロナ不安の再燃が「人々の労働意欲を減退させ労働市場の改善を遅らせる」と共に、サプライチェーンの混乱を増幅させる」と分析してみせました。パウエル議長が挙げた「労働参加率の遅れ」と「サプライチェーンの混乱」の2つは、いわゆる「供給制約」と呼ばれるもので、いずれもすでに起きているインフレの元になっているものです。

感染力の強いオミクロン株への恐怖で人々が働きに出ることに「より慎重に」なれば、労働力不足はますます強まりますし、感染拡大で生産や物流が一層停滞すれば、サプライチェーンがさらに混乱するので、インフレを一層加速させると心配しているのです。もちろんオミクロン株は、人々を消費の現場から遠ざけ、総需要を押し下げる効果もあるはずなのですが、パウエル議長はそれよりも供給制約を強める力のほうが大きいとみているのでしょう。

というのも、前提となっている今のインフレが、すでにパウエル議長の当初の予想を上回る「強さ」になっており、もはや「一時的」とは言っていられないレベルになっているからです。同じ議会証言でパウエル議長は、「より持続的なインフレリスクが高まっているのは明らか」とした上で、これまで自身が使ってきた「一時的」という言葉についても「もはや使わないようにする良い機会だ」と言い切りました。金融市場から「ハト派」の頼み綱とされた面影はもはやないほどの、見事な「タカ派」への変身ぶりです。

先月、パウエル氏はFRB議長として再任されましたが、その発表記者会見では、バイデン大統領がパウエル議長を目の前に、物価高騰への対処を期待すると発言をする場面もありました。そうでなくても支持率低迷に悩むバイデン政権は、今、中核支持層である中低所得者層からガソリンや食料品などの物価高に対する猛烈な反発を受けているのです。議長が公の場で発言した以上、FRBは今月の決定会合で量的緩和縮小の加速を決め、来年春以降には、いつでも利上げできる態勢に持っていくでしょう。

しかし、問題はその先です。仮に利上げをしても、金融引き締めは「供給制約」を直接解決することはできません。あくまで需要を抑える効果にとどまるものです。だとすれば、最悪のシナリオは、インフレは止まらず、成長=コロナからの回復が鈍化するということになってしまいます。経済正常化への道のりはさらに難しさを増しています。

播摩卓士

播摩卓士(TBSテレビ報道局 上席解説委員)

1984年入社 報道局で経済全般、日米関係、国際政治などを取材。ワシントン支局長、NEWS23キャスター、編集主幹、解説室長などを経て、現在、BS-TBS「Bizスクエア(土曜午前11時)」キャスター。