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TBS NEWS

2021年7月26日

今週の注目「数字合わせのエネルギー基本計画」

[ TBSテレビ報道局 上席解説委員 播摩卓士 ]

経済産業省は21日、新しいエネルギー基本計画の原案を公表しました。これは、政府が2030年度に温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減するという目標を設定したことを受けて、最大の二酸化炭素排出セクターである発電部門でどのような電源構成を目指すのかを示したものです。原案は、再生可能エネルギーを36~38%と、現状の18%から倍増させる他、原子力も20~22%と現在の計画を維持することで、その分、火力のウエイトを41%にまで引き下げて、二酸化炭素の排出量を大きく抑え込むことを目指しています。

ところが専門家からは早くも「実現不可能」との見方が相次いで示され、審議会の場で反対を表明した橘川武郎国際大学副学長は、「ミスリーディングな数字が並んでいて、非現実的」とコメントしました。

なぜ非現実的かと言うと、第一に、原子力の比率を現状維持にしたことです。日本では現在27基の原子力発電所が再稼働を目指していますが、現在までに再稼働したのは10基に過ぎず、2019年度の実績は発電全体の6%に過ぎません。しかも27基の中にはすでに耐用年数とされる40年を超えたもの、間もなく40年を迎えるものも含まれています。にもかかわらず、原案は世論の反発をおもんばかって、原子力発電所の建て替えや新設を盛り込みませんでした。原発の建て替えや新設がなければ、現行目標の維持は非現実的ですし、そうした意志が示されなければ、再稼働だってなかなか進まないでしょう。

主役となった再生エネルギーの倍増も非現実的と言わざるを得ません。今後、再生エネルギーの切り札と期待されるのは洋上風力発電ですが、立地の決定や建設に時間がかかる洋上風力は2030年度には本格的には立ち上がっていません。陸上風力は立地に限りがあり、結局のところ、再エネは当面、太陽光頼みとなるのです。

しかし、太陽光発電も、ここに来て「場所探し」の大きな壁にぶつかっています。平地の少ない日本では、巨大砂漠のような、パネルを置く適地がそもそも少なく、山間地の森を切ったり、傾斜地に盛り土をするなどして置き場所を探す有り様で、災害の危険や景観の観点から、各地で反対運動が起きているほどです。今の倍のスペースを見つけるのはなかなか難しく、倍増させるとなると、例えば戸建て住宅の屋根に太陽光パネルを義務付けるとか、荒廃農地をパネル設置に切り替えるといった大胆な工夫と政策支援が必要です。しかも、太陽光は夜や曇った日は発電できませんから、大規模な蓄電設備の整備を行うと共に、送電網の大幅な改編も必要になるでしょう。そうした政策的な肉付けなしに、数合わせの数字だけの発表となりました。

しかもこの原案、発電総量が省エネによって今より10%減るという楽観的な見通しを前提で作られています。発電総量が減れば、増える電源のシェアは、その分、より大きく見えるというからくりですが、姑息な試算と言われても仕方ありません。自動車を含めてあらゆるものが電動化する時代、発電総量はそう簡単に減らないのではないでしょうか。

再生エネルギー倍増は無理と、匙を投げているのではありません。目標達成に向けた政治的意志や政策的裏付けが全く感じられないからこそ、「非現実的」と言わざるを得ないのです。

温暖化ガス46%削減を感覚で決めるだけが政治決断ではないはずです。それを実現するための具体的な政策、そして説得に責任をもって初めて政治決断と言えるはずです。このままでは、達成できなくてもだれも責任を取らないということになりかねません。原案を「絵に描いた餅」に終わらせないための、真摯な議論が求められています。

播摩卓士

播摩卓士(TBSテレビ報道局 上席解説委員)

1984年入社 報道局で経済全般、日米関係、国際政治などを取材。ワシントン支局長、NEWS23キャスター、編集主幹、解説室長などを経て、現在、BS-TBS「Bizスクエア(日曜午後9時)」キャスター。