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TBS NEWS

2021年7月6日

今週の注目「激しさ増す豪中対立」

[ TBSテレビ報道局 上席解説委員 播摩卓士 ]

オーストラリアと中国の対立がさらに激しさを増しています。オーストラリアが豪州産大麦やワインに対する中国の高率関税は不当だとしてWTO(世界貿易機関)に提訴したのに対し、中国は先月、オーストラリアが中国産の鉄道車輪や風力発電用タワーに課した反ダンピング関税を不当として、WTO提訴に踏み切り、どちらも一歩も引かない戦いが続いています。

かつては貿易の相互依存などで密接だった豪中関係は、去年4月にオーストラリアのモリソン首相が「新型コロナウイルスの発生源を独立機関によって究明すべきだ」と求めたことを機に、急速に悪化に転じました。中国は、オーストラリアの主要輸出品である大麦、ワインに反ダンピング税を適用した他、牛肉や小麦、ロブスター、砂糖、石炭などを検疫上の理由などによって、次々と輸入停止の対象にしたのです。

コロナ発生源を客観的に調査しようという主張に、中国がなぜこれほどまでに激しく反発するのか理解に苦しむところですが、一連の中国側の対応には、自国への批判を一切認めず、大国ではない国には居丈高に臨むといった体質がうかがえると指摘されています。

これに伴って、オーストラリアの中国に対する世論は急速に悪化、最新のシンクタンク(ローウィー国際政策研究所)の調査によれば、豪国民の63%が中国を安全保障上の脅威と見ており、逆に経済的機会を提供する国と答えた人は34%にとどまりました。この数字、2018年には、脅威が12%、経済的機会が82%だったのと比べると隔世の感があり、凄まじいスピードで豪国内に反中感情が高まっていることがわかります。

その背景には、かつてのジャパンマネーをも凌ぐ、チャイナマネーの存在もあります。豪州内のあらゆるものを中国が買収していくという危機感です。その代表が2015年に安全保障上の要衝と言えるダーウイン港を中国企業が420億円で99年間、借り上げてしまったという出来事でしょう。インド洋と太平洋への睨みを利かせる、この重要な港湾施設の使用権を、地元の北部準州政府がこともあろうに中国に与えるという無防備ぶりに、時のアメリカのオバマ政権が激怒した時は、すでに後の祭りでした。中国の一帯一路政策に呼応する形での、こうした買収例や協定例はいくつもあるようで、慌てた豪州連邦政府は、去年暮れ、地方政府が外国政府と結んだ協定が連邦の外交方針に反する場合は無効にできるという法律を制定したほどです。問題のダーウイン港の施設についても、今後、契約の見直し・破棄が提起される可能性が高い上、中国による対豪州投資も安全保障上の理由から拒否される例が予想され、豪中対立は一段と深まりそうな気配です。

激しさを増す米中対立から、世界中が様々な局面で、アメリカか中国かの選択を迫られる中で、オーストラリアの置かれた状況は、その先駆けとして多くの教訓を与えてくれています。コロナ禍で苦境にあえぐ「安いニッポン」の企業や施設、不動産がチャイナマネーに飲み込まれることはないのか、日本にとっても、ひとごとではありません。

播摩卓士

播摩卓士(TBSテレビ報道局 上席解説委員)

1984年入社 報道局で経済全般、日米関係、国際政治などを取材。ワシントン支局長、NEWS23キャスター、編集主幹、解説室長などを経て、現在、BS-TBS「Bizスクエア(日曜午後9時)」キャスター。