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TBS NEWS

2021年6月14日

今週の注目「インフレとポストコロナ戦争」

[ TBSテレビ報道局 上席解説委員 播摩卓士 ]

ワクチンの普及で経済活動が正常化しつつあるアメリカでは物価が急上昇しています。10日に発表された5月のアメリカの消費者物価指数は、予想を大きく上回り、前年同月比で5.0%の上昇と2008年以来の高い伸びとなりました。4月の4.2%上昇からインフレがさらに加速した形です。変動の激しいエネルギーと食品を除いたコア指数も3.8%の上昇と29年ぶりの大きさでした。

しかし、先月、大きな波乱が起きた金融市場は、今回は冷静に反応し、10年の長期金利は逆に低下、1.43%と低水準で引けました。債券市場は、「物価上昇は一時的なものである」という頑固なまでのFRBの説明を受け入れた格好です。確かに前年同月比という比較は1年前のウラが出るので、コロナショックで著しい需要減退が起きた去年5月と比べれば高い数字が出るのは当然ですし、半導体不足による新車の納車遅れが中古車の価格の急騰を招いているといった特殊要因が存在するのは事実です。しかし、本当にインフレは一時的に終わるのでしょうか。

最も注目されているのが賃金の行方です。急速な景気回復でサービス産業での人手不足は深刻で、一部では労賃の引き上げが始まっています。労働市場に人が戻るにつれて、この動きは収まっていくのではないか、との見方もありますが、さて、どうなるでしょうか。そもそもバイデン政権は、格差是正のためにもすべての層で成長が享受できる『包摂経済』をめざしており、粘り強く積極的な財政金融政策を続けることをめざしています。だとすれば、低所得層での賃金上昇が目に見えて起きるまでは、金融は引き締めないということになります。賃金が上がっていけば、当然、物価は上昇していくので、やはり一定のインフレは起き、それを一定、許容するのではないかと、私は考えます。つまりインフレは必要なのです。

また、もう少し長い期間で見てもインフレは必要です。コロナとの戦いで各国は戦時下に匹敵する膨大な財政赤字を抱えました。第2次大戦後の経済復興では、物理的に破壊された設備や住宅に新たに投資する膨大な実需が生まれ、それを支える人口増加というボーナス(団塊の世代やベビーブーマー)があって、高成長を実現しました。高い成長が巨額の戦時債務を返済可能にしたのです。

しかし、ポストコロナ戦争では投資のチャンスも人口ボーナスも発生しません。人口はむしろ減少するでしょう。だとすれば、債務負担を減らすためには、一定のインフレが欠かせないのではないかと思うのです。

デフレ時代に生きる私たち日本人は忘れがちですが、急速なインフレ、ましてやハイパーインフレは、資産を持つ者と持たざる者の格差を大きくします。インフレで苦しむのは庶民です。ですから、一定のインフレを許容しながら、成長を続けるという難しい戦いをしなければなりません。ポストコロナ時代は、コロナ時代以上に難しい経済運営を迫られることでしょう。それは、資本主義と経済政策にとって新たな挑戦に他なりません。

播摩卓士

播摩卓士(TBSテレビ報道局 上席解説委員)

1984年入社 報道局で経済全般、日米関係、国際政治などを取材。ワシントン支局長、NEWS23キャスター、編集主幹、解説室長などを経て、現在、BS-TBS「Bizスクエア(日曜午後9時)」キャスター。