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TBS NEWS

2021年6月7日

今週の注目「半導体は国家事業」

[ TBSテレビ報道局 上席解説委員 播摩卓士 ]

「半導体を制する者が世界を制する」(自民党・半導体戦略議連甘利明会長)

世界的な需給ひっ迫や米中経済のデカップリング(分断)を受けて、日本の半導体産業の再興を目指す国家的な戦略が具体的に動き始めました。政府は2日の成長戦略会議に「他国に匹敵する取り組みを早急に進める」と基本戦略を提示し、4日には所管する経済産業省が『半導体・デジタル産業戦略』を正式に発表しました。『戦略』は半導体の確保を国家事業と位置付けた上で、デジタル産業の基盤である半導体の安定供給に向け「通常の産業政策を超えた特例扱いの措置をとる」とまで明記しています。

その具体策の第一弾が、世界大手のTSMC(台湾積体電路製造)が日本で行うことになった研究開発への支援で、TSMCがつくば市でイビデンなど国内20社と共同で行う最先端の「3次元回路」の研究事業に5年間に190億円を拠出するというものです。これまで半導体は、回路の微細化によってその性能を向上させてきましたが、線幅が最先端で2ナノメートル(ナノは10億分の1)まで細くなると、これ以上の微細化は難しく、回路を立体的に積み上げる「3次元化」によって、性能と消費電力の飛躍的向上を図ろうというわけで、5Gを超える「ポスト5G」時代の超高速大容量通信の基盤になるものと期待されています。

日本の半導体産業は1980年代の後半には世界シェアの半分を占めるほどの栄華を極めましたが、日米半導体協定や、その後の台湾・韓国勢の成長の前に衰退し、今では需要の6割を輸入に頼るほどの低迷ぶりです。半導体の戦略性が広く認識されるようになったため、ようやく国として支援の方向に大きく舵を切ったもので、梶山経産相は「失われた30年の反省を踏まえて、大きく政策転換を図る」と表明しました。

しかし、前途は多難です。そもそも公的な支援額は、アメリカは5兆円、EUは10兆円以上なのに対し、日本は現状2000億円と、規模がまるで違います。その上、日本にはそもそも先端ロジック半導体を開発できる企業はもはやなく、第一弾の支援案件も、台湾のTSMCに来てもらい、日本が優位性を持つ素材メーカーや半導体製造装置企業と協業するという建てつけです。日本の半導体産業が衰退した背景には、大胆な投資を迅速に決定できないといった日本企業の体質の他、電力や土地などの基本的製造コストが高いといった問題がある上、今や、高度な半導体のエンドユーザー(需要家)は日本でなくシリコンバレーにいるという現実もあり、日本で先端の半導体生産が成り立つのかは不透明です。

そこで産業政策の出番となるわけですが、この産業政策、最近はうまく行った例はあまり聞きません。メモリ分野の半導体で国策会社と位置付けられたエルピーダの破たんも止められず、同じように戦略製品と期待された液晶分野では、多額の公的資金を注入したJDI(ジャパンディスプレイ)がもはや風前の灯火です。そもそも30年間、半導体産業の衰退を見過ごして来た政府に、先見の明があるとも思えません。かつて産業政策が輝いていた高度成長期と現在とでは、時代が違いますし、能力や権限という点で、かつての通産省と今の経済産業省は全く違います。

産業政策への過度な期待は禁物です。

播摩卓士

播摩卓士(TBSテレビ報道局 上席解説委員)

1984年入社 報道局で経済全般、日米関係、国際政治などを取材。ワシントン支局長、NEWS23キャスター、編集主幹、解説室長などを経て、現在、BS-TBS「Bizスクエア(日曜午後9時)」キャスター。