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TBS NEWS

2021年5月12日

今週の注目「コロナ敗戦?」

[ TBSテレビ報道局 上席解説委員 播摩卓士 ]

東京、大阪など4都府県に出されていた3回目の緊急事態宣言が延長され、さらに愛知、福岡両県も対象に加えられました。ゴールデンウイーク前にスタートした今回の宣言下では、感染者数がなかなか減少に転じず、苦しい戦いを強いられています。この1年余り、日本のコロナとの戦いを顧みると、「敗戦」と言って過言ではないかと思うことがあります。日本という国が、コロナと合理的に戦えていないのです。

確かにアメリカやヨーロッパ諸国に比べれば、現時点では、感染者数も死者数もけた違いに少ない人数に留まっていますが、同じアジア太平洋の国でも、オーストラリア、ニュージーランド、台湾やシンガポール、さらには韓国と比べると、状況はかなり見劣りします。これらの国がやっていることは決して特別なことではありません。水際対策を徹底的に行って感染者を国内に入れないようにすること、そして国内ではPCR検査を徹底的に行って無症状の感染者をできるだけ早く見つけ出して隔離することです。

ところが日本では、例えば、インドからの入国者に対するホテル等での強制隔離を4月28日までは義務付けず、自主隔離という名の、いわば野放しにしていました。これだけインド変異種が騒がれていたにもかかわらず、です。しかもやっと導入したホテル隔離もわずか3日間に過ぎず、5月7日になってようやくそれを6日間に延ばすことを決めました。それでも実施は5月10日から、というスピード感のない対応ぶりでした。水際対策の厳しいオーストラリアは、一貫してほとんどの国からの入国者に14日間のホテル隔離を義務付けてきたことと比べれば、いかに日本が緩いかわかります。中国から新型コロナウイルスが拡散した去年冬、日本は春節のインバウンド客を大量に受け入れ、国内にウイルスを拡大させてしまいました。また去年の秋以降、イギリス変異種が出た際も、ロンドン直行便は毎日何便も飛び続け、その対策は大きく遅れました。同じ失敗を3回も繰り返し、何も学んでいないではありませんか。

大規模PCR検査の必要性も去年の冬からずっと言われてきました。この間、民間の検査センターがこれだけ誕生したにもかかわらず、未だに国や自治体が街中で無料検査を大規模に行ったという話はほとんど聞きません。緊急事態宣言も、発動基準や解除基準は「科学的」というよりは、ムードや国内の政治要因で決まるようにも見え、国民には何が目標なのか見えにくくなっています。一体、いつからこの国はこれほど機能不全に陥ってしまったのでしょうか。「コロナ敗戦」と呼ぶのは、「科学的合理的に事態を把握して適切に対処する」ことが、国としてできていないからです。

75年前に私たちの国は、合理性のない思考に陥って戦争を始め、大きな犠牲を出しました。戦後ニッポンの原点は「科学的合理的な思考」にこそあったはずです。成熟期に入った日本は、「バブル敗戦」「フクシマ原発敗戦」という2つの大きな「敗戦」も経験しました。今回の「コロナ敗戦」ではワクチンも自分で作れないほどの負けっぷりです。ワクチン接種も遅れがちで、毎日、多くの高齢者が「不合理な」予約システムに疲れ切っています。それでも、あきらめるわけには行きません。コロナとの戦いの犠牲を最小限にとどめるために、今からでも、なんとか「敗戦」の汚名をはね返したいと、切に思うのです。

播摩卓士

播摩卓士(TBSテレビ報道局 上席解説委員)

1984年入社 報道局で経済全般、日米関係、国際政治などを取材。ワシントン支局長、NEWS23キャスター、編集主幹、解説室長などを経て、現在、BS-TBS「Bizスクエア(日曜午後9時)」キャスター。