NEWSの深層

TBS NEWS

2021年3月8日

今週の注目「みずほ、遠い信頼回復」

[ TBSテレビ報道局 上席解説委員 播摩卓士 ]

 「銀行のATMではなく、なるべくコンビニATMをお使いください」

 みずほ銀行が、銀行として前代未聞の呼びかけを行ったのは、2月28日の日曜日のことでした。最大で全国のATMの8割にあたる4318台ものATMが停止し、ATMがカードや預金通帳を『飲み込んだ』まま、戻ってこない被害が5244件発生、カードコーナー非常電話もなかなかつながらず、カードが戻ってこないお客さんが、コロナ禍の日曜日に数時間ひたすら待つことを強いられるという、信じられない事態が起きたのです。これが先進国のメガバンクか、と言いたくなる光景でした。

 システムの具体的な不備については専門家に任せるとしても、私には、システムそのものの問題というよりも、みずほ銀行という銀行の思考回路に大きな問題があるように思えてなりません。わかりやすく言えば、顧客重視の姿勢が決定的に欠けているのです。

 みずほ銀行の藤原頭取は、一日遅れで開いた記者会見で「通常の25万件の作業に加え不定期の定期預金に関する45万件データの移し替え作業が重なり、システムに負担が生じた」と説明しました。そうでなくても月末は、給料の振り込みや現金引き出し、定期預金の満期到来など、システムに一番負荷がかかる時です。まして2月は、28日までしかないのですから、より作業が集中するのに、なぜ45万件もの臨時的な作業を行ったのか、大きな疑問でした。しかも土日を通じて、作業を行ったのです。平日であれば、異常あればすぐに支店の人が対応に出てきてくれるでしょうが、土日は支店も閉まり誰もいません。いわば警備会社への電話だけが頼りという有り様でした。

 一体、そこまでしてやらなければいけなかった臨時的なデータ移行とは何だったのか。疑問が膨らむ中、3月4日になって、みずほ銀行は、それが、今年から始めると決めていたデジタル口座へのデータの移行作業だったことをようやく明らかにします。紙通帳のコスト負担を軽減するためメガバンクは競って通帳のデジタル化を促しており、みずほ銀行も今年1月から新規の口座開設では紙通帳の発行を有料化した他、1年以上記帳のない『不稼働定期預金』のデータの移し替えに向けた作業を開始していたのでした。この重要な情報を、藤原頭取は3月1日の会見では明らかにしていないのです。銀行側の都合を優先したと思われたくなかったのか、明らかにしなかった理由はわかりませんが、この情報『非開示』は不誠実です。

 システム障害発生時の対応も、みずほ銀行の情報の流れや意思決定という思考回路に問題を感じさせます。すでに午前中にはATMで異常が発生していたにもかかわらず、みずほ銀行が全店に出社命令を出したのは午後2時半です。「自分の預金が引き出せない」「大事なカードや通帳が戻らない」という商業銀行の一大危機にあって、この大事な情報が共有され危機対応に至るまで、これほど時間がかかるのは、金融インフラの担い手として失格と言われても仕方ありません。

 みずほ銀行は、2002年と2011年に大規模なシステム障害を引き起こした反省を受けて、2019年に基幹システムを全面刷新し、出直し、反転攻勢を始めたばかりでした。2019年秋にグループトップである、みずほFG(フィナンシャルグループ)の坂井辰史社長に単独インタビューする機会がありましたが、坂井社長は私の質問に以下のように答えています。

Q.システム更新のために「みずほ難民」という言葉ができるほどATMを止めて作業しましたが、完全に新しいものが完成したのですか?

坂井社長:その通りです。9回も移行作業を重ねたのは、万万が一にも失敗があってはならない。2度とご迷惑をおかけしてはいけないという決意で、とりかく安全確実を一番重視した。

Q.今後、こういう(大規模な)システムトラブルはまずないと考えていいですか?

坂井社長:もちろんシステムの世界ですから、確率論的に100%ないというのは、残念ながら申し上げられない。しかし今回のシステムは、システム障害時の対応とか、いろいろな形でこれまでより飛躍的に進歩している。従来以上にサービスをお使いいただけると断言できる。

 インタビューで述べた坂井社長の決意に偽りがあったとは、私は思いません。また、システムそのものも検討を重ね進化したものになったのでしょう。しかし、システムを使うのは人です。結局、システムを運用する企業の思考回路や意思決定のプロセスが、システム障害のタネになり、障害をより大きな被害へと拡大させてしまったのです。基幹システムを全面刷新しても起きてしまったのです。ですから、事態はより深刻なように思えます。

 野球でも「3ストライクでバッターアウト」ですし、「仏の顔も三度まで」という諺もあります。今後、金融庁への報告や行政の対応、責任の明確化など様々なステップがありますが、みずほの信頼回復には厳しい道のりが待っています。

播摩卓士

播摩卓士(TBSテレビ報道局 上席解説委員)

1984年入社 報道局で経済全般、日米関係、国際政治などを取材。ワシントン支局長、NEWS23キャスター、編集主幹、解説室長などを経て、現在、BS-TBS「Bizスクエア(日曜午後9時)」キャスター。