NEWSの深層

TBS NEWS

2020年6月11日

同時検証「コロナ禍」の日々(44)「検察定年延長政局」【その11】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 検察庁法改正案の通常国会での採決見送りの決定をした5月18日に夜、安倍総理は「公務員の定年延長法案については、まさに国民全体の奉仕者たる公務員制度の改革については、国民の皆様の声に十分に耳を傾けていくことが不可欠であり、国民の皆様のご理解なくして、前に進めていくことはできないと考えます」と語った。しかし、「黒川東京高検検事長」をめぐる騒動は、さらに続いたわけだった。

 週刊文春が20日の午後「文春オンライン」で、黒川氏の緊急事態宣言下での賭けマージャンを報じたのである。

 翌日発売された「週刊文春」の見出しは「5月1日、産経記者の自宅で〝3密〟6時間半 黒川弘務検事長は接待かけマージャン常習犯 現場スクープ撮」と、今、見返してもなんとも生々しい。そして、法務省は黒川氏本人への聞き取り調査に乗り出し、翌、21日の朝日新聞朝刊では「黒川検事長が辞意 賭けマージャン認める」と報じる急展開となったっけ。

 黒川氏は安倍首相あてに辞職願を提出し、22日の持ち回り閣議で了承されたのだが、その処分が「訓告処分」だったことが、「傷」を深くした。訓告処分は国家公務員法に基づく懲戒処分より軽く、規定通り退職金が支給される。その退職金は約6000万円だと話は広がった。これが、「緊急事態宣言」下で、みんなが自粛生活を強いられる中で起きたのだ。

 数多くが指摘しているのだが、これはまずい。1992年8月に朝日新聞が特報して始まった当時の自民党金丸副総裁をめぐる5億円の巨額献金事件をほうふつさせるのだ。夏に自民党副総裁辞任の記者会見をし、(暑い日だった。当時竹下派担当だったのだが、小沢一郎事務所のある平河町の十全事務所前で立っていると、事務所から出てきた親しい竹下派幹部に「ここにいないで早く自民党本部に行った方がいいぞ」と、言われ坂を走って党本部の記者クラブにたどりついたら、間もなく金丸氏が記者クラブに現れたのを覚えている)、その後金丸氏に対して東京地検は罰金20万円の処分をすることになる。

 「5億円もらって20万円の罰金かい」。

 世論は沸き立ち、検察庁の玄関の看板に黄色いペンキが投げつけられたりしたのだ。当時の法務省の担当者が「ペンキが台座の石にしみこみましてね。たくさん賠償金をとっておきましたから」などと語っていたのも、なぜか覚えている。

 このあと、金丸氏は議員辞職し、翌年の巨額脱税事件で逮捕、起訴された。竹下派の分裂は、宮沢内閣の不信任案可決、衆院解散、小沢元自民党幹事長らの「新生党」旗揚げ、細川非自民党連立政権の誕生とつながるわけだ。充満した国民の不満は爆発すると激しい。

 黒川氏の処分については、安倍総理は22日の内閣委員会で「検事総長が事案の内容など、諸般の事情を考慮し、適切に処分を行ったと承知している。その報告は、法務大臣からなされ、黒川氏が辞意を表明したということなので、私も了解したということだ」と語った。

 一方、森法務大臣は記者会見で「最終的に内閣で決定がなされたものを、私が検事総長に『こういった処分が相当であるのでははないか』と申し上げ、検事総長から訓告処分にするという知らせを受けた」と説明し、食い違いをみせたのだ。「官邸」の判断か「法務省」の判断か。

 その後、25日の東京新聞の朝刊は安倍政権の状況をあぶりだしてみせた。

 「法務省は国家公務員法に基づく懲戒が相当と判断していたが、官邸が懲戒にはしないと結論付け、法務省の内規に基づく『訓告』となったことが分かった。複数の法務・検察関係者が共同通信の取材に証言した」というのだ。複数の法務・検察関係者が「官邸」のマイナス材料について取材に応じる姿。「安倍一強」を背に安倍総理がにらみを利かせていた「霞が関」へのグリップがほころびだしていた。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞