NEWSの深層

TBS NEWS

2020年6月10日

同時検証「コロナ禍」の日々(43)「検察定年延長政局」【その10】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 検察庁法改正案は5月15日の衆議院内閣委員会の質疑が進む中、「♯検察庁法改正案に反対します」とのツイートが爆発的に広がり、一方で松尾元検事総長ら検察OB有志が、記者会見に臨んだ。松尾氏は「定年延長を認めることによって、政権が検察にアクションを起こして影響を与える危惧が非常にある」と厳しい表情で語っていた。そして、この後、検察庁法改正案は、急転直下の展開となるのだっけ。

 週明けの18日月曜日の読売新聞の1面は関係者に文字通り「激震」を走らせた。「検察庁法見送り検討」「今国会 世論反発に配慮」「政府与党近く判断」というのだ。記事では「検察官の定年を延長する検察庁法改正案の今国会成立を見送る方針が、政府与党で浮上していることが17日わかった。野党や世論の批判を押し切って採決に踏み切れば、内閣にとって大きな打撃になりかねないためだ。安倍首相は与党幹部らと協議し、近く最終判断をするとみられる」とあった。

 記事ではさらに「ツイッター上で著名人らの抗議が拡大したほか、検事総長OBらも反対の意見書を法務省に提出するなど反発が広がった。政府・与党内でも『世論の理解が不十分なままに採決に至れば、禍根を残す』と懸念の声が高まっている。現金給付をめぐる混乱もあり、政府の新型コロナ対策には批判も少なくない。自民党幹部は『無理をすれば国民の不満が爆発する』」(5月18日読売新聞朝刊)。とあった。

 ここで動いたのも、またもや自民党の二階幹事長だった。「減収世帯への30万円給付が閣議決定までおこなわれながら、二階幹事長の発言と、それをきっかけにした公明党の動きで「一律10万円」に変わった前代未聞の出来事があったばかりだった。二階氏は「検察庁法改正案」への世間の反発を感じ取り、最側近の林幹事長代理とともに内閣委員会での採決見送りの後、その週末に激しく動いた。

 一方、読売新聞18日朝刊に関しては別の見方も浮上する。この日夜、安倍総理は検察庁法改正案の採決見送りを表明することになるのだが、この日にはわからなかった驚きの事実が後から明らかになる。その週の20日午後に「文春オンライン」が、渦中の黒川東京高検検事長の記者とのかけマージャンを写真付きで報じることになったのだ。記事によると、記者が黒川氏に直当たりして事実関係を質したのは17日午前10時過ぎだという。ならば、その後、報告が安倍総理に上がり、その段階で「官邸の守護神」とも呼ばれる黒川検事長が、1月31日の「定年延長」の閣議決定の後、「後付け」だとツイッターと野党の激しい批判を呼び込むことになった「検察庁法改正案」をめぐる状況だけでなく、「『コロナ自粛』期間中の記者とのかけマージャン」との深刻な問題が加わったのは、想像に難くない。つまりは、記事が「安倍総理サイド」の動きと関係があるのではとの見方だ。

 18日、安倍総理は官邸で二階氏と会談した。その後、二階幹事長は記者会見に臨み「今国会は新型コロナウイルス対策が最優先であり、喫緊の課題だ」と語った。そして、安倍総理は夜7時前に記者団の前に立つことになる。

 安倍総理は「公務員の定年延長法案については、まさに国民全体の奉仕者たる公務員制度の改革については、国民の皆様の声に十分に耳を傾けていくことが不可欠であり、国民の皆様のご理解なくして、前に進めていくことはできないと、考えます。その上においてですね、やはり国民の皆様のご理解を得て進めていくということが肝要であります。その考え方のもと、今後の対応方針について、幹事長とですね、考え方で一致をしたところであります」と語った。その表情からは落胆しているのだか、肩の荷を下ろした安堵感があるのかは読み取れない。

 ただ、政権発足後8年、安全保障法制をはじめとして、反対論を押しのけて強行突破して法律を成立させ、批判をねじ伏せてきた、かつてのその姿ではなかった。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞