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TBS NEWS

2020年6月9日

同時検証「コロナ禍」の日々(42)「検察定年延長政局」【その9】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 検察官の定年延長の特例を盛り込んだ検察庁法改正案の衆議院内閣委員会での採決を与党が見込んでいた5月15日、騒然とした中でのその日の質疑は終了した。野党は内閣や法務大臣の判断で検察幹部の定年を最大3年延長できるとの規定について、その適用基準を明確にするよう繰り返し求めた。一方、森法務大臣は新たな人事院規則がまだ策定されていないとして具体的に示すことは困難だとこちらも繰り返した。その後、理事会で与党が改正案の採決を提案する一方で、先を超す形で野党は武田行政改革担当大臣の不信任決議案を衆議院に提出したっけ。そして、自動的にその日の採決は見送られたというわけだ。

 その後、夕刻、国会の外でなおもドンドコ太鼓の音が響き「検察庁法改正反対」「強行採決絶対反対」との拡声器の声が響く中、自民党の森山国会対策委員長は記者を前に「内閣委員会で法案の審議の途中で野党がお出しになるであろう修正案について協議の最中に、所管大臣の不信任決議案が提出されました。ゆえに内閣委員会は継続して審査することが不可能になりましたので、来週に持ち越すということになります」と憮然とした表情で語った。そして、「野党が出すかどうかという修正案について協議中に実質委員会が止まってしまう所管大臣の不信任案が出されたということは、私にとってはきわめて遺憾なことであります」と語気を強めた。そして、記者から「政府与党として目標としている今国会の法案成立はゆらいでいないか」と水を向けられると「当然であります」と言い切った。翌日の新聞には「与党は19日の本会議で不信任案を否決し、早ければ20日の同委(内閣委員会)で採決に持ち込みたい考え」(5月16日朝日新聞)と報じた。

 しかし、立憲民主党の枝野代表は「今日の採決は阻止できました。最後まで最大限の努力を続けます」とのメッセージをツイッターに投稿。「#検察庁法改正案に抗議します」との投稿は渦巻くこととなった。そういえば、ツイッターの抗議を5月11日の衆議院予算委員会の場で、初めてめて国会の場に持ち込んだのは枝野氏だったけ。「総理は感染症危機を乗り越えることよりも、こうした世論に背を向けて自分に都合のいい法律を作ることを優先して危機の状況を政治的に利用しようとしているんじゃないですかあ。火事場泥棒のようだとの指摘があります。まさにその状態じゃないですか」。紅潮した枝野氏の顔が目によみがえった。

 そして、5月15日は内閣委員会の質疑が進む中、松尾元検事総長ら検察OB有志が、記者会見に臨んだ。思えば宮沢内閣の後藤田法務大臣時代に法務省も担当だったのだが、この当時松尾氏は確か人事課長で、なんだったか立食の記者クラブとの懇親会でビールを片手に雑談をしたのを覚えている。法務、検察は誰がどの順番で検事総長になるかはだいたい決まっていて、誰かに「松尾さんはロッキード事件を手掛けたんだ。検事総長になる人だよ」と耳打ちされ、「なんだか鋭い人だな」と思ったのを今でも鮮明に覚えている。(ちなみに、松尾検事総長の後任が但木検事総長なのだが、但木氏は当時秘書課長で、こちらの方は人懐っこいなんとも愉快な人柄で、たびたび夕刻になると記者クラブに現れ、数人でビールを飲みながらバカ話で盛り上がったものだ。思えば、法務、検察の人は、すごく怖い人と、気さくな人と二通りだったような気がする)

 その、松尾氏らが提出した意見書では「検察庁法改正」について「検察人事への政治権力の介入を正当化し、政権の意に沿わない動きを封じて、検察の力をそごうと意図している」と指摘していた。テレビで見る記者会見に臨んだ松尾氏は「定年延長を認めることによって、政権が検察にアクションを起こして影響を与える危惧が非常にある」と厳しい表情で語っていた。

 そして、この後、検察庁法改正案は、急転直下の展開となるのだっけ。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞