NEWSの深層

TBS NEWS

2020年6月7日

同時検証「コロナ禍」の日々(41)「検察定年延長政局」【その8】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 5月15日の衆議院内閣委員会では野党の質問が終われば「検察庁法改正案」の採決が見込まれていて、共産党の議員が質問に立った時には、それはあと20分後に迫っていた。

 窓からはドンドコドンドコとの太鼓の音とそれに合わせた「検察庁法改正反対」「強行採決絶対反対」との悲鳴なような声が響いていた。政治介入を招くことになる幹部検事の「定年延長」について、後藤祐一氏がその基準を示せと迫ったのに続いて、共産党議員は、仮に判断基準を示せたとしても「政治介入」の恐れは残り続けるのではないかと厳しく迫った。

 これに、森法務大臣はそもそも検察官の任命権者は内閣もしくは法務大臣。改正前後で変わることはないと答弁書を見ながら繰り返し、そのたびに委員会室は野党のヤジと自民党のヤジの応酬で騒然となった。

 そんな中、「採決」の瞬間に向けて、野党議員は次から次へと厳しい表情で部屋の後方の傍聴席にやってきて、部屋の周りは完全なる「3密状態」となった。途中、野党の理事が自民党の理事に手招きされて部屋の外に出て行ったり、「カウントダウン」が始まった。最後の質問者で、持ち時間「4分」の日本維新の会の議員がやってきて「『3密』だなあ」と声を出したりした。

 もはや、入り口にも野党議員があふれ、脇で衆議院の衛視が額に汗を流しながら「出入口確保お願いしまーす」と声をあげたりした。質問が続く間も、立憲民主党の理事が、野党の傍聴人や席を回って何やら話、自民党席の議員は気がかりなのかその様子をちらちら眺めたりしていた。日本維新の会の議員が「あんたも野党だろー」「あんたは与党かー」とのヤジの中、「時間が来ました。4分ですよ」と不満げに語ると、「さっさと終われ」とまたヤジを浴びたりした。そこで、委員長は「暫時休憩しまーす」と声を張り上げたのだ。午後3時45分のことだった。

 なにやら拍子抜けした感じで眺めていると、森法務大臣は秘書官らと出ていき、なにやら陽気な武田担当大臣は野党の議員の肩をたたき「おっ」などと声をかけながら出ていった。

 たたかれた方の野党議員は「あの人ってさ、検察庁の話のとばっちりを受けた謙虚さがないよなあ。おどおどしない。知らないことでもわかっているかのように答弁する」と妙に感心したりしていた。そして、委員長は「その前に、ちょっとトイレ」とか言いながら部屋を出ていった。「やれやれ理事会は長くなりそうだわい」とうんざりした気分になったっけ。

 委員長らがいなくなった委員会室で議員が所在なげに待機する中、駆け付けていた野党議員は雑談を始め、「何やら笑って。喜んでいるように見えるからやめてください。イヒヒ」などと話していた。そして、なにがうれしいんだか「怒っているようにしてください。イヒヒ」だという、そして、太鼓を打ち鳴らす外を見て「シールズ風にやってくれないかなあ」などとつぶやいたりした。

 今後を話し合う理事会は委員会室の隣の部屋でやっているのだが、もはや扉はあけっぱなしで、野党の議員がそこからそば耳をたてていた。与党は採決を強く主張しているのだろう、待機する野党議員のところにやってきて、「やるかもしれません」と委員長席の近くに集まるよう誘導したりした。

 そして、午後4時25分。理事がぞろぞろ戻ってくると、委員長が委員長席に着き「ただいま武田国務大臣の不信任案が提出されました。本日これをもって解散しまーす」と大声を出した。

 「散会だろー」とヤジが飛ぶと、委員長は気まずそうに「あ、散会、散会」とマイクにむかってつぶやいた。なんのことはない、委員会の緊張とは別に、立憲民主党などの4野党が「採決強行」阻止に向けて、武田担当大臣の不信任案を衆議院に出したのだ。ぞろぞろと、拍子抜けした感じで引き上げる中で、自民党の理事は「でも、野党側はゾロゾロと集まっていたけれど、不信任案を出すと身内に何も伝えていなかったのかね。そうだとしたらかなりの高等戦術だよね」などと話していた。

 それでも、週明けの武田担当大臣の不信任案の衆議院本会議での与党多数による否決、そして内閣委員会での検察庁法改正案の採決、本会議通過。この時は多くの関係者がそう思っていた。しかし、事態は風雲急を告げることになったのだ。窓からはドンドコ太鼓の音が鳴り響いていた。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞