NEWSの深層

TBS NEWS

2020年6月4日

同時検証「コロナ禍」の日々(39)「検察定年延長政局」【その6】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 間もなく、野党の質問が終われば起きるであろう「検察庁法改正案」の「採決強行」を控え、5月15日の昼下がりの内閣委員会室の中は緊迫していた。「3密」を避けるために開けた窓からは、ドンドコドンドコ太鼓の音が響き、拡声器の「検察庁法改正反対」「強行採決絶対反対」との叫び声がそのまま委員会室の中に届いていた。

 その中、質問を続けた国民民主党の後藤祐一氏は問題の「検事の定年延長」の条件について執拗に質問をした。後藤氏は「ではどんな基準を設けるべきか、議論しよう。まず3つくらい、第1基準、第2基準、第3基準、これは入れなければいけないというのを順に提案申し上げる」と言うと、「まず第1基準。それは過去事件基準。過去の事件で問題なかった。つまり過去にいろんな事件が起きている。検事長が途中で変わる、でも業務は問題なかった。そういった事件であれば定年退職とか役職定年とか別にそのまますればいいじゃないか。特例認める必要ない…。言ってることわかります?」と大声で目の前に座る森法務大臣に語りかけた。目の前に座る森大臣はまたもや目をぱちくりさせた。

 そして、後藤氏は「昨年10月までは検事長が63歳以降も居座れる規定を作らなくても公務の運営に著しい支障が生じるような事例は見当たらなかったということでよろしいですか。確認」と森大臣をにらんだ。

 これに、森大臣は「検察官に勤務延長の適用がないことにより、公務の運営に著しい支障が生じた特段の事例は見当たりませんでした」と答弁書から目を離さず読みあげた。

 すると、後藤氏はたたみかけるように「63歳以降も、検事長が居座らなきゃいけないような立法事実がまさに体現化された具体的な人事のケースは黒川さんの人事の件以外ないということでよいか」と大声を張り上げた。森大臣は「はい具体例はございませんでした」と答え、後藤氏が「黒川さんの件はどうか、黒川さん以外ないということで良いか?」と念を押すと森大臣は「その通りでございます」と観念したように追加した。

 これに我が意を得たりの表情の「ということはこの検察庁法改正案の立法事実は黒川さんのケースしかないということをまさに森大臣も認めたということじゃないですか」と声を張り上げると、野党席から「そうだー」と大声があがり、自民党席からは「そうじゃないっ」と反撃のヤジが上がり騒然となった。その中、後藤氏は「森大臣は5月12日火曜日の記者会見で黒川検事長の人事と今回の法案は関係のないものだと述べておられますけども、まさ関係あるじゃないですか。唯一の立法事実と認めているじゃないですか。そのものじゃないですか。関係あるじゃないですかあ」と声を張り上げると、今度は野党席からは「そのものだっ」と大声があがり、その後も自民党席からの反撃にかぶせるように野党席から「そのものだっ」と改めてヤジが上がっていた。

 法務省の事務次官まで務め「官邸の番人」とまで呼ばれた「黒川東京高検検事長」の閣議決定での定年延長、そしてなおも疑問の声がやまない中で新型コロナウイルスの感染拡大の「緊急事態宣言」の自粛生活の中で、「閣議決定」の「事後確認」のように間もなくこの委員会の場で採決が強行されんとする「検察庁法改正案」のやり取りだった。外から聞こえるドンドコドンドコとの太鼓の音は唸るような響きとなり、それに合わせた「検察庁法改正反対」「強行採決絶対反対」との叫びは悲鳴に近いものとなっていた。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞