NEWSの深層

TBS NEWS

2020年6月3日

同時検証「コロナ禍」の日々(38)「検察定年延長政局」【その5】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 間もなく、起きるであろう「検察庁法改正案」の「採決強行」を控え、5月15日の昼下がりの内閣委員会室の中は緊迫していた。この日、初めて改正案審議に出席した森法務大臣は手元の資料を緊張の面持ちで読み込んでいた。「3密」を避けるために窓はすべて開けてあるので、外からはドンドコドンドコ太鼓の音が響き、拡声器の「検察庁法改正反対」「強行採決絶対反対」との叫び声がそのまま委員会室の中に届いていた。

 その中、質問に立った国民民主党の後藤祐一氏は「これが国民の声なんですよ」と大声をあげ、「みんなが森大臣の答弁を注目している」と森法務大臣をにらみつけた。そして、「きょうはこの定年延長、あるいは役職定年の延長、どういった場合にできるのかという基準について是非、明確に森大臣に示していただきたいというふうに思う」と力を込めた。その後、「公明新聞には『内閣が検察幹部の勤務延長などを認める場合はその基準の明確化が必要と考えます』とされている。そしてこの基準が曖昧なことについては与党の先生方からも大変厳しいコメントがありますけれどもお、森大臣、定年延長あるいは役職定年延長、どういう場合に認めるかの基準明確化が必要では」とまたもや森大臣をにらみつけて質した。

 これに、森大臣は手元の答弁書を見ながら「現行国家公務員法上の勤務延長の要件は改正法によっても緩められておりません。また役職定年制の特例の要件の勤務延長と同様の要件が定められております。これらの具体的な要件は人事院規則において適切に定められるものと承知してます」と答えた。そして、「要件をより具体的に定める内閣が定める事由等についてでございますが、これは新たに定められる人事院規則の規定に準じて定めます。このように、改正法に検察官の勤務延長や役降り特例が認められる要件を定めた上で新たな人事院規則に準じて内閣が定める事由でより具体的に定めることとしておりますが、現時点で人事院規則が定められておりませんので、その内容を具体的にすべて示すことは困難であります」と、長々と答弁書を読み上げた。要は改正案の採決にあたっても、検察の定年延長の基準は示せないということだった。

 その後も、森大臣は長々と答弁書を読み続けた。これにたまりかねた後藤氏は、「現行制度を説明しただけだ」と声を張り上げた。そして、質疑のために事前に委員に配布してあった資料を手に「配布資料1ページ目が人事院規則11の8、その解釈通知が2枚目。それ読んだだけっ」と大声を出し、森大臣をにらみつけるので、森大臣は読んでいた答弁書から思わず顔を上げ、目をぱちくりとした。

 続けて、後藤氏は「人事院総裁は定年延長については、これらはそのままと答弁している。検察官についてはこれだけじゃあだめっ」と力を込め、「ほかの国家公務員、一般職国家公務員とは全く違う配慮が必要な訳でしょ。これそのままにするのか。てにをは変えて…。そんな基準を考えているのか。検察官の場合に特に気をつけなきゃいけないことはいろいろあるでしょう。そこを考えるのが法務大臣の仕事じゃ?」と大声を上げ、森大臣はまたもや目をぱちくりした。委員会室にはなおも外からのドンドコドンドコとの太鼓の音と、それにあわせた「検察庁法改正反対」「強行採決絶対反対」との大声が響いていた。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞