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TBS NEWS

2020年5月31日

同時検証「コロナ禍」の日々(36)「検察定年延長政局」【その3】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 「緊急事態宣言」の下での自粛生活の中、国会で審議が始まった検察庁法改正案への抗議はネット上で日々、広まっていった。政府の判断で検察幹部の定年を延長できる規定が『人事や捜査への政治介入を招く』と問題視され、ツイッター上での投稿が相次ぐ中、この日の衆議院内閣委員会では与党が採決を強行することが見込まれていたのだ。

 昼下がりに別館のこぎれいな委員会室に足を運ぶと、委員会が始まるにはまだ20分ほどあるのに、エレベーターホールにはすでにカメラマンや記者らが群がっていた。そりゃ、関心は高いのだ。改正案は、法務省官房長などを務め、「官邸の番人」とまで呼ばれる黒川検事長(この時)の定年延長を「後付け」するとともに、検察幹部の「出口」での「官邸の関与」は、検察庁への官邸のにらみを利かせる「効果」が見込まれるもので、採決を強行すれば委員会室での相当な混乱と、安倍政権への激しい批判が巻き起こることは必至の情勢だった。

 人の群れをすりぬけ、委員会室の入り口に向かうと、さらに人込みは増えていて、カメラマンが「凄い『密』だなあ」「やばいよお」などと困った表情で話したりしていた。

 委員会室の中はまだ、議員がまばらで、ちょっと安心したりした。壁の上の方には長年勤めた議員の肖像画が飾ってあった。

 社会党委員長時代に取材した土井たか子元議長や、旧竹下派の事務総長で分裂騒動の時に取材で随分と世話になって、いつも「がはは」と笑っていたのが印象に残る佐藤守良氏や、竹下派7奉行の一人でなんとも怖かった(でも新橋の場末の狭いスナックで飲んだ時にはネクタイをくれたりした)奥田敬和氏らが並んでいて、妙に懐かしい気分になったりした。

 委員会室は「3密」状態を防ごうと、珍しく窓が開け放たれていて、外からドンドコと太鼓の音と共に、「検察庁法改正反対」「強行採決絶対反対」との拡声器からの叫び声がもろに入ってきて、部屋の中に響いていた。

 そんなところへ、トップバッターで質問に立つ国民民主党の後藤祐一氏が資料を抱えて入ってきて「よりによって狭い部屋だねえ。いくらでもほかにも部屋はあるのに」などと話しかけたりした。たしかに、「採決強行」となれば、狭い部屋での混乱は危険に思われたのだ。目の前には2番目に質問に立つ共産党の藤野保史氏が、緊張した面持ちで質問の原稿を読み込んでいた。質問時間が足りなくなった時のためなのだろう、ところどころに赤線と星印がつけてあった。

 だんだんと、委員会室の中に議員が集まり、カメラマンらも増え、どこからか「完全密状態だ」と声が上がったりした。そして、野党議員の拍手が起こる中、後藤氏が質問に立ち「検察庁法改正案には断固反対ですっ」と声を張り上げた。部屋には「そうだっ」との大声があがった。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞