NEWSの深層

TBS NEWS

2020年5月24日

同時検証「コロナ禍」の日々(31)「緊急事態全国拡大」と「一律現金給付」【その3】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 4月17日の「緊急事態宣言の全国拡大」を受けた安倍総理の記者会見では、当然、記者からは、「制限付き30万円の現金給付」から「一律10万円の現金給付」への変更の理由を質す声があがった。

 指名を受けて、会見場の中央に立ったスタンドマイクの前に立った、その記者は、「全国民への一律10万円の現金給付は、一部の減収世帯を対象とした30万円の給付の補正予算を組み替えるという異例の経過をたどっています。当初の想定から支給日が遅れる可能性もあり、なぜ最初から一律給付にできなかったのかとの疑問の声も上がっています」と語り、前に座る安倍総理は数回軽くうなづいて見せた。

 記者は「先ほど総理は混乱を招いた責任についておわびすると、率直におっしゃいました。この現金給付に関する一連の判断や対応のどこが問題だったかとお考えでしょうか。そもそも全ての国民に10万円の現金を給付しなければならない理由は何なのか」と質した。

 これに安倍総理は「今回の緊急経済対策について政府は、また、与党において議論をしたときにおいても、一律10万円という議論もございました」と左手を前にさしだした。

 そして、改めて左手を前に出し直し、「一方、リーマンショック(2008年)の時に1万2千円を全ての国民の皆様にお配りした。しかし、言わば経済効果という観点からすれば、多くが、これは寝てしまった、預金となってしまったという反省点もありました」と説明を始めた。

 そして、安倍総理は両手を胸の前に出しながら「この30万円を決定した議論を行ったときには、2つのフェーズに分けて、今、非常に、特定の事業の皆さんが、旅行に関わる事業の皆さんが大変な打撃を受けている中において、その皆さんをまず手厚く支援をしていく。そして、その先で終息が見えてきた、あるいは終息した段階においてV字回復をしていくという中において、その消費を全ての国民の皆様が活用できる形で喚起していこうという判断をさせていただきました」と、そもそもは旅行関連事業者らを念頭に置いていたと語った。(ただ、この説明は「住民税非課税レベル」まで収入が減った場合との条件で「1世帯当たり30万円現金給付」で、国民の約2割が対象となるとされた、変更前の「給付」のイメージとは、ずれがあると思えるのだが・・・)。

 その後、「しかし、緊急事態宣言を行い、また、今回、全国においてそれを広げてきたところでございますが、正に特定の事業者あるいはその周辺の関係者の皆さんだけではなくて、ほとんどの国民の皆様がそれぞれ外出を自粛しなければいけない、どうなるかという、本当に不安の中にあるわけでありまして、ここは皆さんが、国民みんなでこの状況を乗り越えていく、連帯して乗り越えていくということの中においては、一律10万円、全ての国民の皆様にお配りするという方向が正しいと、そういう判断をさせていただきました」と、眉間にしわを寄せながら両手を前に出したり、左手を差し出したり、盛んな身振りで語った。

 「緊急事態宣言の全国拡大」と関連付けて、「国民みんなで連帯して乗り越えるため」との「変更」の説明だった。「最初から国民みんなで乗り越える状況だったじゃない」と思わず「突っ込み」を入れたくなるような「苦しい理由付け」だった。

 そして、安倍総理は両手を胸にあてて「私も国民の皆様からそういう声が強いということも承知しておりました。そしてまた、与党からもそういう議論がありました。野党の皆さんもそういうお話があった中において、何とか4月中に国会の手続も含めて、何とかこういうぎりぎりのタイミングで、こういう判断をさせていただいた」とし、いつもは激しく国会で反論する野党の意見さえ取り入れたとした。

 続けて安倍総理は胸に右手をあてながら「しかし、先ほど申し上げましたように、1週間遅れることになりましたから、もっと判断を早くしておけばよかった、責任は私にありますので、改めて国民の皆様におわびを申し上げたいと、こう思います」と、また謝罪した。そうなのだ「一律10万円」への変更で、補正予算案は組み替えられ、この後、国会の提出は予定より1週間遅れたのだった。

 その上で、「できるだけ早くこの現金を国民の皆様のお手元にお届けしたいと思っています。どういう方法があるかということにおいては、例えばリーマンショック時は、全国に対する給付申請の確認等に時間を要しまして、予算成立から多くの方々に給付を行うまでに3か月の期間を要したわけでありまして、今回は申請手続の簡素化等、様々な工夫をして、できる限り早く国民の皆様にお渡しできるようにしたい」と語った。

 そして、左手を差し出し「具体的な方法について、今まさに急ピッチで作業を進めています。まさにこれはスピードが重要だと思っております」と力を込めた。

 しかしなのだ。「マイナンバーカード」の活用をめぐる混乱も加わって、結局「10万円」の支給は遅れに遅れ(足立区にすむ私のもとには「郵送」の申請用紙もまだ来ていない:5月20日現在)、中小企業や個人事業主向けの資金繰り対策である「持続化給付金」の給付と合わせ、今や「遅い」「遅い」との不満が街にあふれることになったのだ。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞