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TBS NEWS

2020年5月16日

同時検証「コロナ禍」の日々(24)岸田氏の「失地回復」

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 新型コロナウイルスの感染拡大を議論した4月28日の衆議院の予算委員会は岸田政調会長のまさに「失地回復」の足掛かりをつかむ正念場だった。

 これに先立って、岸田氏は「緊急経済対策」の目玉である「現金給付」について政調会長として、減収になった世帯向けの「制限付き現金給付」を主導し、「制限付き30万円」で安倍総理と一致したものの、二階幹事長の発言をきっかけに公明党の巻き返しで「一律10万円現金給付」にひっくり返されてしまったのだ。

 この結果、岸田氏の政治手腕にクエスチョンマークがつくことになり、「ポスト安倍」争いで「一敗地にまみれる」格好となってしまっていたのだ。朝8時半、委員会室につくとすでに一番乗りの村上誠一郎氏が最後部席に陣取っていた。

 この日の委員会室は「新型コロナ対策」で議員席を広くとるとともに、3人掛けの机も1議席あけての両端と間隔をとってあった。いつもは部屋の後方一杯、一列に並べられる傍聴席は与野党3席ずつのみ。委員長席の前にある速記者の席は部屋の端の記者席の前に移動、そして中二階のカメラマン席の下にある、その記者席は2列に減らされていた。

 8時50分には石破元幹事長も登場。トップバッターで質問に立つ岸田氏も早々と質問席に座った。だんだんと議員が集まり始め、立憲民主党の辻元清美氏が、バックからまだ開封していない政府配給の「布マスク」を周囲に見せると、そばの自民党の平沢勝栄氏が「それつけて質問すればいいよ」と冷やかし、辻元氏が「一緒にしないでくださいっ」と返して、笑いが起きたりした。そこに、安倍総理が、その「小さな布マスク」をつけて登場。審議が始まった。

 「新型コロナの感染対策」として、医療体制や中小企業向けの融資、そして休業手当を助成する「雇用調整助成金」などについて、安倍総理に質した岸田氏は、持ち時間を10分残し「家賃補助」について質問しだした。

 岸田氏は「固定費について申し上げます。それは家賃の問題です。自民党にも極めて厳しい状況にあって、東京・大阪大都市などから、飲食業などの業種から、悲痛の叫びが寄せられています。家賃については、持続化給付金を1日も早く事業者に届けることがまず大事なのではと思います」と力を込めた。

 そして「そのうえで緊急事態宣言の行方も踏まえつつ考えないといけないのではないか。無利子・無担保融資は今回の対策で、民間金融機関にも拡大されるが、家賃でお困りの方はまずこれを活用して、必要な家賃の資金を手にしてもらう。そして、将来的に返済に関しては融資のうち家賃など固定費に使った分については、元本返済について、給付金、助成金、免除という形で実質的に国が責任を持つようなスキームを考えられないか」と前に座る安倍総理を見つめた。

 岸田氏は続けて、「いま申し上げた、融資と助成のハイブリットは米国で活用されているスキームで米国ではPPPと称されている。融資と助成のハイブリットの新しい仕組みのもとにコロナ問題に取り組んでいる。我が国としてもこの融資と助成のハイブリット型を考えることで固定費の支援が考えられないか」などと、力を込め、約5分もかけた質問をまとめた。

 これに、安倍総理は立ち上がり「外出自粛等々の影響で家賃の支払いに苦慮している方がいると承知しております」と応じて見せた。そして、「固定費の負担である地代、家賃については、全国平均を参考に最大200万を支給して飲食店など支援する。全国平均の半年分と考えています。もちろん、東京等では平均ですから足りないことは十分承知している。その中で、給付をさせていただく」と左手を胸にあてたり身振りを交え、中小企業や個人事業者向けの「持続化給付金」を説明して見せた。

 そして、そのうえで、「今、政調会長から提案があったハイブリット型の支援にについて検討をしてもらっているということですが、党における検討の結果は政府としてしっかりと受け止めていかなければならない。当然、さらなる対策が必要になってくるということも考えないといけない。その時はしっかり躊躇なくやっていく」と踏み込んでみせた。これに、岸田氏は立ち上がり「総理から理解いただいたこと。政府としても支援していく強い思いを発せられたことを心強く思います」と満足げに力を込めた。

 岸田氏はこの後、このハイブリット型の「家賃補助」の党内とりまとめに奔走し、5月8日に安倍総理に提言書を提出することになる。「失地回復」の瞬間だった。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞