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TBS NEWS

2020年5月14日

同時検証「コロナ禍」の日々(23)「コロナ現金支給政局」【その3】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 自民党の二階幹事長が記者を集め、自民党本部4階のエレベーターホールに姿を現したのは4月14日の夕方6時だった。メモを手にした二階氏はカメラを前にいきなり低音のすごみを利かした声で語りだした。

 「新型コロナウイルス感染症対策や経済対策に、各方面から様々な提案をいただいています。これから提出される補正予算案では、そうしたご要望をしっかりと受け止めて、当面の措置を考えていく」。「たとえば、アビガンについては一日でも早く、これが承認できるように、医学的な手続きを取って、かかりつけの医師等のお力・ご協力で患者さんに投与されることが可能となるように、一日でも早く急いでいただきたい」と言う。

 そして「次に、経済対策では、一律10万円の現金給付を求める等の切実な声があります。できることは速やかに実行に移せるように、自民党としても政府に強力に申し入れを行い、実行に移すことのできるように、自民党としての責任を果たしてまいりたいと思っています」と言い放ったのだ。

 記者からの財政規律に対する質問には「国の財政も考えた上で、いま何をすべきかということ。しかし、財政の事を考えないわけにはいかないが、こういう事態に財政のことを言っていたのでは始まらないということは承知をしている。今後とも、状況に見合って対処していきたいと思います」とはねのけ、「現金の給付については、大変強い要望が集まっていることは承知をしている。できるだけ、ご要望に応えられるように努力してきたい。いま議題の中心になっているので、まとまればそういう方向になっていくと思います」とうなるように、すごんで見せたのだ。

 この前の日、13日の昼に国会内で自民、公明両党の幹事長、国会対策委員長の定例会合があった。この中で、公明党側は「一律給付案」だっただけに、1週間前に自民党の岸田政調会長が主導し、安倍総理が緊急事態宣言の記者会見で胸を張った「制限付き30万円の現金給付」を厳しく批判した。その後、二階氏は自民党本部に寄せられた反応を探ることになる。そして、「制限付き30万給付」への批判と「抗インフルエンザ薬アビガンの早期使用許可」の2つの申し入れが殺到していることを知ることになったという。そこで、冒頭のぶら下がりになったというわけだ。

 これに、公明党の支持母体である創価学会が改めて「一律現金給付」に向けて息を吹き返す。背中を押された格好の山口代表は15日、総理官邸に向かい安倍総理との直談判に臨むことになったのだ。

 総理との会談後山口代表は「私から申し上げたのはただ一つです。政府が緊急事態宣言を発してから広範な深い影響が社会経済に及んでおります。その状況を踏まえて、これからの国民にメッセージを、しっかりと連帯のメッセージを送る。こういう趣旨で、1人当たり10万円。所得制限をつけない国民給付。これを、総理に決断を促しました。総理からは方向性を持って検討します。こういうお答えであります。ぜひこれを実現するために、そして国民の今、本当に先が見通せず困っている状況に、その励ましと連帯のメッセージをしっかりと伝えるべきだ。このように思います。私から以上です」と、怒ったような表情で一気に語った。そして、「積極的に受け止めていただいたものと理解しています」と言い残し官邸を去った。この時、連立離脱もほのめかしたとされる山口氏だったが、公明党は翌日も補正予算案の組み換えを要求し、予算委員会の理事懇談会の出席を拒否するなどの強硬策に出た。

 そして、結局、16日、「一律10万円の現金給付」で決着し、補正予算案が組み替えられるという異例の事態となったのだ。

 安倍総理は17日の夜、「緊急事態宣言」の対象区域の全国拡大を表明した記者会見で「混乱を招いたことは私自身の責任であり心からお詫び申し上げたい」と語った。それは、4月7日に「緊急事態宣言」の記者会見で「経済対策」に胸を張った姿とは様変わりだった。

 そして二階氏の方は、官邸で政策を差配する安倍総理最側近の今井首相補佐官を念頭にしてか「官邸は役人に振り回されすぎている」と周囲に語ったという。政局だった。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞