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TBS NEWS

2020年5月13日

同時検証「コロナ禍」の日々(22)「コロナ現金支給政局」【その2】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 自民党の岸田政調会長が官邸で安倍総理大臣と会談した後、記者へ「制限付き30万円現金給付」で一致したことを表明したのは4月3日だった。その後、4月7日の緊急事態宣言の記者会見で経済対策について胸を張る安倍総理の姿は今になると痛々しい。

 安倍総理は「緊急事態宣言」の発出を表明した後、「緊急事態としての措置を講じる以上、当然経済活動への大きな影響は避けられません。もとより今でも多くの中小・小規模事業者の皆さんが事業継続に大きな支障を生じておられます。世界経済だけでなく、日本経済が今まさに戦後最大の危機に直面していると言っても過言ではありません」と声を張り上げるのだ。そして、「その強い危機感のもとに、雇用と生活は断じて守り抜いていく。そのためにGDPの2割にあたる事業規模108兆円、世界的にも最大級の経済対策を実施することといたしました。困難に直面しているご家族や中小・小規模事業者の皆さんには総額6兆円を超える現金給付を行います」と強調する。

 続けて、岸田政調会長と一致したという目玉の「制限付き30万円現金給付」について、子育て世代の「児童手当」とあわせ、「1世帯当たり30万円に加え、次の児童手当支払いに合わせ、1人あたり1万円を追加することでお子さんの多いご家庭の家計もしっかりと下支えします」と胸を張るのだ。

 当然、記者からはすでに自民党内でも批判がいきなり広がった「住民税の非課税世帯」について、手続きの複雑さや、全世帯の約2割だろうとされる給付対象の狭さなどについて質問が飛んだ。これに安倍総理は「30万円の給付についてでありますが、自民党にも一律で給付したほうがいいのではないかという議論がありました。私たちも検討した。例えば私たち国会議員もそうですが、公務員もいまこの状況でも全然影響を受けていない、収入には影響を受けていない訳であります。私たちも影響を受けていない訳であります。そこに果たして5万円とか10万円の給付をすることはどうなんだという点も考えなければならないだろうと思います」と切り捨てた。

 そして、安倍総理は「ですから本当に厳しく、収入が減少した人たちに直接給付が行くようにしたいと考えました。またなるべくスピーディーに行いたい。ですから我々は5月なるべく早く補正予算を通して頂いて5月に直ちに出ていくようにしていきたい。全員に給付するということになりますと、麻生政権の時にもやりましたが、だいたい手に届くまで3か月ぐらいどうしても時間がかかってしまう。今回はスピードも重視したということです」と述べ、麻生財務大臣のリーマンショック当時の1万2千円の現金給付が、多くの人が貯金に回し経済効果につながらず、厳しい批判を浴びた麻生財務・副総理の「一律給付」への反対をそのまま口にしたりした。

 ただ、事態は「コロナ禍」で、給付は「経済対策」ではなく、いわば困っている人への「見舞金」との発想は抜けていた。もともと、「一律現金支給論」だったとされる安倍総理は、「盟友」麻生財務・副総理の言葉に揺らいだ。この局面は「外出自粛」で「需要」が消えてしまい、「感染収束」こそが、最大の「経済対策」で、そこに至るまでは「需要」が消えたまま余儀なくされるのは明白だったのにだ。

 安倍総理は「どこかで我々も線引きをしないとならない。それはつらいことでありますが、今回お示しした形で給付をさせていただきたい。とにかく今この事態を何とか皆で協力して乗り越えていきたいと考えています」と理解を求めた。このことが、わずか1週間後に政局に突入することになる。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞