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TBS NEWS

2020年5月12日

同時検証「コロナ禍」の日々(21)「コロナ現金支給政局」【その1】

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 新型コロナの感染拡大に対する「緊急経済対策」の目玉である「現金給付」をめぐる大混乱は、そもそもあの日から始まったのだ。自民党の岸田政調会長は4月3日の午前11時にCS・ネット番組「国会トークフロントライン」出演のためTBSテレビを訪れ、スタジオで経済対策を熱く語った。

 この日は、読売新聞の朝刊が目玉の現金給付について「1世帯当たり20万円」との「スクープ」記事を報道していた。そこで、「一律ではないのか」と水を向けると「『一律』だから早いかどうか。これは全員に配るとしても、転居する方もいる、亡くなっている方もいる。『一律』の配り方は簡単ではない。リーマンショックのときも現金で給付したが、一人ひとり確認しないといけないので、書類を送り、申請してもらった。その手続きだけで3か月かかった。一律に配るからといっても、そう簡単なことではない」と明確に否定してみせた。

 そして、「今回は、『広く薄く』支給するではなく、本当に困っている方にも温度差があるので、必要な方に必要な額を配らなければいけない。『広く薄く』配るものを、『寄せてより高くする』ことを考えないといけない。その際に、手挙げ方式で支給をしようと。そのことで、申請に要した3か月を省略する形でできないか。『「寄せて高くする』にしてもスピード感は大事しようという議論が行われている。詳細は政府で調整を行っている。スピード感にも配慮しながら必要な方に必要な額を届けられるように、最大限の努力をしないといけない」と、減収になった世帯向けの「制限付き現金給付」だと力を込めたっけ。

 続けて「20万円」の金額について聞くと「これは決まっていない。これはギリギリの調整をいま続けている。できるだけ、どこまでできるのか。範囲にも関わる話なので幅と高さをどうするのか、今現在もギリギリの調整をしている」と語った。

 そして、この約3時間後、岸田氏が総理官邸に現れたとのメールが手元に届いたのには驚かされた。

 総理との会談を終えた岸田氏は、ホールで待ち構えた記者に対し「えーと、総理と新しい経済対策について、意見交換をさせていただきました。経済対策の規模等、さまざまな点について、意見交換をさせていただきましたが、その中にあって、えーと、焦点となっております個人への現金給付につきまして、えーと、一定の水準まで所得が減少した世帯に対して、1世帯30万円、支給すべきであるということを申し上げました」と興奮の面持ちで語った。そして、「えー、総理と意見、認識が一致いたしました。総理の了解をいただきました。1世帯、30万、の支給という線で、詳細をこれから政府においてしっかりと詰めてもらいたいと思っています」と付け加えた。

 朝刊に続いて、昼のニュースでも各社「20万円支給」と相次いで報道した後だっただけに、「30万円支給で一致」と言い切ったのは驚いたっけ。そして、安倍総理が岸田氏を「後継」にしようとしているとの見方が広がっている中で、これには多くの人が「岸田氏に花を持たせ、後押ししたな」と感じることになったわけだ。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞