NEWSの深層

TBS NEWS

2020年5月9日

同時検証「コロナ禍」の日々(19)幻の「制限付き30万円現金給付」

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 4月7日の安倍総理の記者会見は、「医療従事者」への感謝と敬意の表明に始まり、「緊急事態宣言」を表明して「接触機会の7、8割の削減」を要請したあと、「経済対策」の説明に移った。経済の失速を警戒して、「緊急事態宣言」に慎重だっただけにこの日の「経済対策」の説明には力が入っていた。

 安倍総理は眉間にしわを寄せ、「緊急事態としての措置を講じる以上、当然経済活動への大きな影響は避けられません。もとより今でも多くの中小・小規模事業者の皆さんが事業継続に大きな支障を生じておられます。世界経済だけでなく、日本経済が今まさに戦後最大の危機に直面していると言っても過言ではありません」と語った。

 そして、「その強い危機感のもとに、雇用と生活は断じて守り抜いていく。そのためにGDPの2割にあたる事業規模108兆円、世界的にも最大級の経済対策を実施することといたしました」と力を込めた。

 その後、その日閣議決定した「緊急経済対策」を一つ一つ噛んで含めるように説明し始めた。まずは、給付金の説明から始め、「困難に直面しているご家族や中小・小規模事業者の皆さんには総額6兆円を超える現金給付を行います」と力を込めた。

 そして、減収になった世帯向けの「生活支援臨時給付金」と子育て世代への「児童手当の上乗せ」について、「1世帯当たり30万円に加え、次の児童手当支払いに合わせ、1人あたり1万円を追加することでお子さんの多いご家庭の家計もしっかりと下支えします」と表明した。

 続いて安倍総理は、「日本経済を支える屋台骨は中小小規模事業者の皆さんです。本当に苦しい中でもいま歯を食いしばって頑張っておられる皆さんこそ、日本の底力です。皆さんの声は私たちに届いています。皆さんの努力を決して無にしてはならない」と胸の前に両手を出すなど身振りを交えて語った。

 その後、中小企業やフリーランスを含む個人事業主向けの資金繰り対策である「持続化給付金」について、「その思いのもとに、史上初めて事業者向けの給付金制度を創設しました。売り上げが大きく減った中堅、中小法人に200万円、個人事業主に100万円支給します」と語り、正面を見た。

 そして、売上高が減った事業者の税金や社会保険料について、「固定資産税も減免します。消費税などの納税に加え、社会保険料の支払いは1年間猶予いたします。当然、延滞金はかかりません。26兆円規模の猶予を実施することで、手元資金を事業継続のために回していただけるようにいたしました」と、両手を胸の前に持ち上げ、「民間の地方銀行、信用金庫、信用組合でも、実質無利子無担保最大5年間元本返済据え置きの融資が受けられるようにします」と語った。

 続けて、左右を見ながら休業手当の助成について「さらには雇用調整助成金の助成率を過去最大まで引き上げるなど、考えうる政策手段を総動員して、国民の皆様とともにこの戦後最大の危機を乗り越えていく決意であります」と力を込め「経済対策」の説明をまとめた。

 しかし、今振り返ると、「緊急事態宣言」に基づいて都道府県知事が業者らに出す「休業要請」をめぐり国と小池都知事の対立が、この記者会見当日の夜から表面化し、いきなり調整不足を浮き彫りにしたっけ。結局、小池都知事の「休業要請」の業種の公表は3日後の10日にずれこむ始末だった。

 また、緊急経済対策の目玉である「制限付きの30万円の現金給付」も、給付対象のわかりにくさや狭さから、自民党の二階幹事長の発言をきっかけに公明党などから強い反発を招き、結局、「1律10万円の現金給付」に変えることを余儀なくされ、補正予算案の組み換えという前代未聞の事態に陥ることになったのだ。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞