NEWSの深層

TBS NEWS

2020年5月7日

同時検証「コロナ禍」の日々(17)「小池百合子」の誕生

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 安倍総理とIOCのバッハ会長が電話で会談して東京オリンピック・パラリンピックの「1年程度の延長」で合意するのは3月24日の夜だった。すでに、数日前から様々報道される事態の中、小池都知事は23日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大防止について、きっぱりとした口調で話し始めた。これまで、東京五輪に関しては、バッハ会長との関係をテコにした小池都知事と「対立」する森元総理の「仕切り」の中で、存在感が薄められてしまった小池都知事の「のろし」の様相となった。

 黒のワンピースにグレーのジャケットを羽織り、薄いグレーのスカーフ姿で現れた小池都知事は「さて、昨今の東京の傾向は、まず海外から帰国した感染者、そして、感染源が特定されない感染者が増えているということであります」と話し出す。脇には大きなモニターが据えられ「海外から多くの方々が帰国すると」との見出しで、説明の要旨が映し出され、小池都知事は「世界各地で都市が封鎖されている、いわゆるロックダウンをされているところで、海外から多くの在留邦人が帰ってこられるという状況がございます。こうした方々を起点とするクラスターが形成されるおそれがあるとのことで、そのクラスターの連鎖や、大規模なメガクラスターになったときには、感染者の爆発的な増加、いわゆるオーバーシュートが発生しかねないということでございます」と語りかけるように話した。そして、「そうなりますと、強力な社会的な隔離策をとる以外に、逆に選択肢がなくなるということでございます」ときっぱりと言い切った。

 これまでは「コロナ禍」が広がる中でも東京五輪の7月開催に向けて希望をつなぐ言動の安倍総理を横目に、「延期の責め」を避けるかのごとくに「新型コロナ」に関する発言を控えた様子に見えたのが、この日、「五輪延期」を余儀なくされたタイミングを見透かすように、打ち上げたのだ。

 続けて、小池都知事は「東京は多くの企業、大学が集積していて、全国から人が集まる日本最大の都市。感染しても症状の出ない若い方々が無自覚のうちにウイルスを拡散させてしまうということが懸念されるわけであります」とし、「アナウンサー経験」の流ちょうな語り口で、大学の新年度の授業開始、企業の入社式、まずかかりつけ医への電話相談、時差通勤、テレワーク、歓送迎会、そして高齢者の感染を避けるための行動などをあげ協力を呼びかけるのだ。

 そして、「一方で、事態の今後の推移によりましては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる可能性があります。そのことを何としても避けなければならない。そのためにも、引き続き、都民の皆様のご協力、さらに一層のご協力をよろしくお願いを申し上げて、私からのご報告とさせていただきます。どうぞよろしくご協力のほど、お願いいたします」と呼びかけるのだ。脇の大きなモニターには「都市封鎖(ロックダウン)を避けるためには都民の皆様の協力が何としても重要」とのメッセージが掲げられた。

 この記者会見で、国民はもはや都市を封鎖する「ロックダウン」の事態の瀬戸際だと感じるようになる。それは、「緊急事態宣言」をすれば日本では実現不可能な「都市封鎖」になるとの誤解を与えたとの批判や、スーパーでの買い占めのきっかけとなったとの見方なども招くことになったのだが、一方で経済への影響を考えて「緊急事態宣言」に慎重だった安倍総理の言動とのコントラストを際立てることになったのだ。

 この後、堰を切ったように小池都知事は連日「新型コロナ」に関する発信を続け、今や記者会見があると情報番組はこぞって生中継で放送するほどの「注目の人」となっているのだ。それは、かつて「希望の党」を旗揚げした時の「小池百合子」の姿をもほうふつさせるほどなのだ。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞