NEWSの深層

TBS NEWS

2020年4月23日

同時検証「コロナ禍」の日々(8)「人から人へ、次々と感染が広がるわけではありません」

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 特別措置法の改正が成立したことを受けた3月14日の安倍総理の記者会見は続いた。今、振り返るとびっくりするような「甘い」言い回しなのだが。

 安倍総理は「前回の会見(2月29日)で申し上げたように、『1、2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となる』との専門家の皆さんの見解が示されてから2週間余りが経過しました。そして、現時点では爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ちこたえているのではないかというのが専門家の皆さんの評価です」と力を込め胸を張るのだ。

 しかしなのだ。この14日正午現在の感染者数は716人(厚労省発表)なのだが、問題は感染が調査結果に表れるまで約2週間のタイムラグがあるということなのだ。そこで、今となって会見から2週間後の28日正午の感染者数を調べてみると1499人(厚労省発表)と、すでに大きく広がっていたことがわかるのだ。

 そして、続けて安倍総理は「大規模イベントの自粛要請」の中で見送りとなった「センバツ高校野球」の球児の心境をおもんばかった。「春のセンバツなど、今月予定されていた各種のスポーツ大会も中止となりました。出場を目指し、連日、厳しい練習に打ち込んできた学生の皆さんの悔しい気持ちは、察するに余りあります。皆さんが応援する御家族や同級生の前で思い切りその実力を発揮できる、そしてライバルと正々堂々競い合える日が一日も早く取り戻せるよう、全力を尽くすことをお約束します」。そして、「しかしながら、現状は依然として警戒を緩めることはできません。これまでの取組について専門家の皆さんに分析いただき、その結果が示されるまで、引き続き御協力を頂きますよう、改めてお願いいたします」と続けた。この部分はわかるのだが、説明は及ばぬ話へと及んでいくのだ。

 安倍総理は「未知の部分が多い新型コロナウイルス感染症でしたが、皆さんの御協力を頂き、これまでの対策を進める中で、多くのことが分かってきました。これまでのデータでは感染が確認され、かつ、症状のある人の80%が軽症です。重症化した人でも半数ほどの人は回復しています。クルーズ船も含めれば、感染者の4割以上、600人に及ぶ方々が既に回復し、退院しておられます。他方、お亡くなりになった方は、高齢者の皆さんや基礎疾患のある方に集中しています」。必要以上の不安が広がらないようにとの思いはわかるのだが、今振り返れば今回の「新型コロナの怖さ」をキチンと伝えられていないように思える。「80%は軽症」「重症化しても半数は回復している」「亡くなった方は高齢者や基礎疾患のある方」。それぞれは「正しく」とも、これを抜き出して続けて伝わるイメージは、「緊急事態宣言」の下での今の生活の思いとはかけ離れているのだ。

 手元の4月19日午後6時現在の厚生労働省のデータでは確かに「年代別死亡率」は80代以上は11.1%、70代5.2%と30代、40代のそれぞれ0.1%と比べて高水準ではある。ただ、「年代別の感染者数」では50代がトップで1827人、そして40代が1776人、20代が1724人、30代が1614人の順となっていて、「若者」も高水準なのだ。「軽症」が多いといっても、今朝の新聞では、埼玉県の自宅待機の50代の男性が死亡したと報じていた。容体が急変するのだ。「無症状」の感染者が、知らないうちにウイルスをまき散らしてしまうことも深刻だ。感染者が増えて「医療崩壊」の危機が押し寄せる今、「新型コロナ」の怖さは、強調すべきだったと思える。

 そして、驚きのくだりへと続く。

 安倍総理は「感染力に関しても、これまで感染が確認された方のうち、約8割の方は他の人に感染させていません。つまり、人から人へ、次から次に感染が広がるわけではありません」と身振りを交えながら続けるのだ。

 これには驚いた。「緊急事態宣言」のもと、感染拡大を防止するために人との接触を避けて出社をできる限り自粛し、テレワークを余儀なくされている身としては、安倍総理が何を言おうとしたのか、わからなかった。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞