NEWSの深層

TBS NEWS

2020年4月15日

同時検証「コロナ禍」の日々(3)記者会見場にて

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 あれは2月29日だった。記者会見室の、最後列にすわると、スピーカーから「まもなく安倍総理の記者会見を行いますっ。記者会見室にお集まりください」との呼び出しがかかった。これから新型コロナの感染拡大を受けた、初めての(遅ればせの)総理会見が始まるのだ。土曜日だというのにぞろぞろと隣の記者クラブから疲れた表情の記者が入ってきて、見る間に会見場はいっぱいになった。そこへ、菅官房長官以下、官房副長官らが入ってきて、記者会見場正面の会見台の右わきの席の前に並んで立った。そして、SPとともに安倍総理が今井補佐官や秘書官らをぞろぞろと引き連れてやってきて記者会見は始まった。今井氏らは会見場右わきの壁に沿った席に陣取った。

 安倍総理は、目の前両脇に斜め下向きに据えた、原稿を映し出す透明のプロンプターを眺めながら「新型コロナウイルスが世界全体に広がりつつあります」、とゆっくりと話し始めた。そして、「現状においては、感染の拡大のスピードを抑制することは可能である。これが今週発表された、専門家の皆さんの見解であります」と力を込めて見せた。今井氏はじっと、その様子を見つめていた。安倍総理は「そのためには、これから1、2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となる。こうした専門家の皆さんの意見を踏まえれば、今からの2週間程度、国内の感染拡大を防止するため、あらゆる手を尽くすべきである、そのように判断いたしました」と声を張り上げた。記者会見室には記者のパソコンの音が「カチャカチャ」と響いた。

 ここに至るまで、1月16日には武漢市を訪れていた神奈川在住の中国人男性の国内初となるコロナウイルスの感染がわかっていた。しかし、24日に始まった中国の旧暦の正月「春節」は30日に至るまでの期間、そのまま入国規制をすることなく、秋葉原や北海道の「雪まつり」など、日本各地の観光地に大勢の中国の人が訪れることになっていった。一方で、29日に武漢の在留日本人206人を乗せたチャーター便を羽田空港に着けてからは、千葉の勝浦のホテルでの対応、に追われたっけ。

 続いて乗客・乗員3700人のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で、途中で下船した香港の男性の感染が判明した後、2月3日に横浜港に着いた後は、その対応にかかりっきりの迷走状態が続いた。

 その間、国内では屋形船に乗ったタクシー運転手の集団感染などが発覚していた。クルーズ船を下船した人たちは公共交通機関で帰宅をし、その後、何人も感染者が発覚する始末だった。政府の基本方針を発表した段階ではクルーズ船感染者数691人、そして国内居住者感染者数は147人にのぼっていたわけだ。

 取材メモを見ながら「今思えば、初期段階での『春節』の対応と、『ダイヤモンドクルーズ』に忙殺されての国内対策の遅れがなんとも悔やまれるなあ」と思った。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞