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TBS NEWS

2020年1月31日

箏の音色で高齢者を笑顔にする箏回想士~ドイツ訪問で得た成果とは・・・

[ TBS科学担当解説委員 齋藤泉 ]


  • 福島・郡山発の音楽療法「箏回想法」とは・・・
  • 箏の音が高齢者を元気にするのは何故?
  • 箏回想士の渡部さんがドイツ訪問で得たもの
(ドイツ訪問報告会1月23日)

■福島・郡山発の音楽療法「箏回想法」とは・・・

 東日本大震災をきっかけに箏の演奏による音楽療法「箏回想法」(ことかいそうほう)を考案したという福島・郡山市出身の渡部佳奈子(わたなべかなこ)さん。

 「日本中の高齢者を笑顔にしたい」という思いで、全国の高齢者施設などを駆け回り、箏を奏でている。この「箏回想法」とは何か?・・・箏の音色を聞きながら、昔懐かしい写真などを高齢者に見てもらい、10代の若かりし頃を思い出してもらう。この回想によってメンタル面での活力を高めようというものだ。

 これまでに渡部さんは8万4000人を超える高齢者に「箏回想法」を体験してもらい、元気になる様子を実感したという。実際、私が話を聞いた体験者の一人は「自分は吃音だったが、琴の演奏を涙を流しながら何度も聞いた。すると知らないうちに吃音が治っていた」と話す。

(川上浩一教授)

■箏の音が高齢者を元気にするのは何故?

 「箏の音色と回想法による視覚的な刺激を組み合わせることで、高齢者や認知症の人たちの脳の衰えた部分を活性化させ、気分が改善しているのではないだろうか」。

 渡部さんの協力者で神経科学を研究している国立遺伝学研究所の川上浩一教授はこう指摘する。また「箏の音そのものが特別で、私たちが幼い頃から自然の中で聞いてきた風や雨の音と共通するものがあるのかもしれない」と分析する。

 音楽療法というものが広く知られるようになっているが、音楽が人間の情動を司る大脳辺縁系にどのように影響を与えているのかは、まだはっきりと解明されていない。また、楽しいメロディーよりも悲しい旋律の方がより脳に刺激を与えるという。こうしたメカニズムを解き明かすことが今、国際的な研究テーマになっていると川上教授は話す。

(ベルリンにある政府運営の高齢者福祉施設「夕陽の家」での渡部さん)

■箏回想士の渡部さんがドイツ訪問で得たもの

 日本で唯一の箏回想士の渡部さんは、日本政府に活動と実績が認められ、2015年、内閣府からドイツに派遣された。ドイツでの音楽療法の現状を知ることで、箏回想法を日本で展開していく際に生かしたいというのが目的だった。この時、ドイツでは音楽療法が100%保険適用の対象になっていることや音楽療法の個人サロンが街中にあることに衝撃を受けたという。

 昨年12月に渡部さんは再び、ドイツを訪れた。目的は“音楽療法先進国”のドイツで研修生として受け入れてもらうため、その受け入れ先を見つけることだ。交渉の結果、高齢者福祉施設などで研修を行うことが許可された。ドイツ研修の具体的な日程は決まっていないが、箏回想士・渡部さんの活動は国際的なステージへと広がりそうだ。

齋藤泉

齋藤泉(TBS科学担当解説委員)

経産省、文科省、外務省など10の省庁を担当。先端技術、ロボット、次世代エネルギー、情報通信など取材。東日本大震災後は福島第一原発の廃炉の現場取材を継続。趣味はジャズと映画鑑賞。合気道二段。