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TBS NEWS

2020年1月17日

【WEB特集】今年度かぎり“見敵必撮”偵察航空隊に密着(7)近づく“終幕”

[ 報道局編集部 水口康成 ]


「ウッドペッカーはどうなるのでしょう?」

 隊のシンボルについて岡田隊長にこう聞いてしまった。不注意にもほどがある。「キツツキですよ。キツツキ。」岡田隊長から教育的指導を受けた次第である。日本の自衛隊の機体にアメリカのキャラクターが描かれるはずはない。そんなことになれば自衛隊の飛行機ではなくなるだろう。隊長の話では前述の通り、キツツキのマークは「無くなると思います」と言うことになる。RFの引退と共に偵察航空隊がおよそ60年の歴史に幕を下ろす日も近づいている。RFの引退については部品の入手が難しくなったことが直接の原因という説明があった。またフィルムについては良さがあるがデジタル化の波もある事もわかった。しかし、隊の存続については「事業化されることなく現在に至る」という言葉通り、偵察専門の部隊を運用することが、今後の航空自衛隊のあり方として選択肢にはなかったということになる。なぜ選択肢となり得なかったのか。


GPSが盲点か?

 今回の取材で、所々でF-4ファントムつまりRFも含めたF-4系として話が出ることがあった。

 その中で気になっていたのは「ファントムはGPSが弱い」という趣旨の話だった。これは何を意味していたのか。推測であるが、航法の部分でもアナログ的な部分があって、デジタルとの親和性が乏しい、言い換えると自分の位置はわかるとしても、その位置を別の部隊などと共有するのが難しいと言うことなのだろうか。各国の防衛システムでも、衛星、航空機、地上、海上等々、それぞれが持ち合わせている情報を共有・連携していることは明らかにされて久しい。有志連合が2001年のアフガニスタン攻撃に乗り出して以降、アフガニスタンで飛ぶ無人機ドローンをアメリカ本土から操縦していたことも、周知の通りである。こうした運用・情報共有・連携という面ではファントムの機能では十分ではないと判断されたのではないだろうか。そうした意味では維持されてきたとはいえ登場が古く、現在、もしくは今後のシステムの一部になり得る機体を事業化するという「世代交代」にはフィットしなかったのだろう。さらに、フィルムもデジタルへの「世代交代」が時代の要請としてあったとも考えられる。デジタルーデジタルとなって出来なかった事が出来るようになる、それも「世代交代」と言うことだ。岩山1尉の言う「トレードオフ」でいえば、フィルムの良さよりもデジタルの良さ、即時性が優先されたということだろう。

 今後はフィルムではなくデジタルで撮影されたであろう画像を、専門部隊ではなく各部隊で分析する事になる。この技術をどうやって伝えていくのか、残り少ない日々ではあるが情報処理隊にはこれまでとは違う「伝承」任務に追われるのではないだろうか。年度末はもうすぐだ。


そのとき隊本部は、隊員は…

 取材したときは2019年11月下旬、航空祭の直前だった。偵察航空隊は通常任務に、訓練に、という忙しさに加え、航空祭の準備にも追われているところだった。さらに、「片付けもあるんです」という声も聞こえた。廃止の日、この隊本部はどうなるのだろう。看板は下ろされるのだろうか、建物の中には新編された隊が入れ替わりるのだろうか。使われなくなったフィルム関係の機材は、そしてそのとき隊員はすでに異動しているのだろうか…。そして何より気になるのが、あの標語だ。


偵察航空隊の任務「見敵必撮」は引き継げるか

 「見敵必撮」。航空偵察を専門とする部隊は消滅することでこの任務のあり方が変わる。この標語はどうなるのか。「敵が見える」ということは「敵から見える」事も意味する。現代の戦争では「見える敵は百発百中」とまで言われるところがある。より見つかりにくい機体での「見敵必撮」、さらに隊員の安全を考えれば機体に「ステルス」性能が要求されたこともあっただろう。それを考えればF-35や無人機による偵察という見方もうなずける。それがマルチロールであるから専門部隊がなくても出来るという判断だろう。部隊などの連携方法や情報の共有方法もさらに深化する事は言うまでも無かろう。偵察航空隊の廃止時期は航空自衛隊の編成の「世代交代」とも重なるのではないか。


災害支援の実績を目撃

 引き継がれる部隊こそ無いが、偵察・情報収集は他の部隊が個別に担当することになる。フィルムの運用も終了することになるが、自然災害が頻発する昨今とあって、「世代交代」による災害支援への効果が注目される。前述の通り私達は偵察航空隊の災害支援の実績を写真で目撃した以上、デジタル化されるとはいえ「ハードル」は高い。35ミリフィルムを使っていた頃、ピントが合えば「ふすまぐらいの引き延ばし」は訳はなかったし、ビルの壁面にだって広告として引き延ばせる時代だった。私達が偵察航空隊で目にした写真も、本当はもっと綺麗に、詳細に映し出されていると想像する。あれだけ「でかい」フィルムである。

 偵察航空隊の廃止は、機体や編成上の更新と複雑に絡み合って今日に至っているようである。偵察という言葉ではイメージできない身近なところで活動していた偵察航空隊。その廃止は単に機体の用途廃止によるもの、という側面だけでなく、情報の連携、そして機体更新や部隊編成などが新しい領域へと向かう「世代交代」を告げるものといえるだろう。「世代交代」後は、何が、どこまで進むのだろう。心配なところもないわけではない。世代交代では「出来るがしなかった」という領域に踏み込むこともある。「出来る様になったから、してみようか」と。もしくは「そのために出来るようにしようか」など。ここは「注視」すべき点だ。


“現役”のまま引退へ

 様々な「世代交代」を告げるように姿を消すRF、F-4。そして、廃止される偵察航空隊。キツツキが話せたらどの様に心境を語るだろう。偵察航空隊も一言で「廃止」を語るのが難しいほど長い歴史がある。航空祭のアナウンスを借りれば、いずれも「現役バリバリ」のまま引退を迎える。聞き慣れた言葉で表現すると「老兵は死なず、ただ去るのみ」というと言い過ぎだろうか。残りわずかな日々、有終の美にむけて、安全と無事を祈りたい。部隊をずっと見続けてきたキツツキが太鼓判を押す形で、「世代交代」となる様に…(続く)

水口康成

水口康成(報道局編集部)

外信部、NEWS23、サンデーモーニングなど担当。
元従軍記者で、著書は「旧ユーゴ内戦の記録'91-'96」や「ボスニア戦記」など、このほか通信社や新聞社などに寄稿。
趣味:テラリウム
好きな食べ物:カイマックと蜂蜜を塗ったパン