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TBS NEWS

2019年12月17日

中曽根康弘元首相のこと(9) ~「時事放談」の思い出

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 自民、公明連立政権と民主党との「大連立構想」をめぐるその日の、1回目と2回目の「福田・小沢会談」の間の金曜日の収録だった。スタジオで「あさって日曜日の朝の放送でございますのでよろしくお願いします」と話すと、中曽根元総理は苦笑いし、読売新聞グループ本社代表取締役主筆の渡辺恒雄氏はゆったりとスタジオセットの椅子にすわって「明日の朝だったらなんでもしゃべれるのに」と返した。しかし、収録前に、スタジオに向かう廊下で渡辺氏の携帯電話にどこからか電話がかかり、「もっと強く行かんとダメじゃないか」などと話し、その後中曽根氏となにやら耳打ちするなど、政局の中で中曽根、渡辺両氏はなおも「現役」だった。

 御厨氏が「福田・小沢」両氏のトップ同士の会談の意味合いを尋ねると、渡辺氏は「そりゃそうですよ。下から段々積み上げてなんて言ってですね。色んな壁を沢山作って。そこでまともじゃないですから第一。だって現に人事案件がね、もう新聞にでたら一切『ノー』」と言う。民主党の馬鹿な人は言っておるけども、あんなこと、やってたら本当にもう行政機能は末端から麻痺していきますよね。やっぱりトップ会談が一番大事なんだ」と語った。そして「けれども、ただ福田さんと小沢さんってのはこれまでエレベーターの中ですれ違った程度しか会ってないんだそうですよ。聞くところによると。だから、1回会ったら、僕と中曽根さんのように数十年の信頼関係は、それは出来ないだろけど、しかし、勝海舟と西郷が何しようが江戸を血の海にするのを防いだ。あれなんかは、勝さんと西郷さんが長いこと飲んだり食ったり、夜してた訳じゃないけど、急にあって、一晩で腹と腹の勝負で、江戸市民を救ったんでしょ。それがどうして出来ないのかなあ」となんとも歯がゆい様子だった。

 中曽根氏は「この場合はね、政権を握ってる福田さんの方でね。小沢さん、民主党をどういう風に歓迎して、政策をお互いにまとめて話し合っていくかと、そういう謙虚な立場を、現に福田さんは出してると思いますよ。次は小沢さんの方がね、そういう国家的見地に立って、後6年というものは、日本は身体が不自由な状況ですからね。こんなことで6年続いたらね、日本はもう最悪の転落になって世界からバカにされると、国連でも相手にされないと、そういう国になっちゃいますよ。それを起こさせない為にはね、今のお話のように2人で対極的に話し合って決めるべきですね。これはもう、いち小沢とか、いち福田を離れたね。日本人としての自覚でね。やってもらいたいと思いますね」と応じたのだった。

 この日の、収録のやり取りは当時、ワイドショーや週刊誌などでいろいろ取り上げられ。このあとの政治家のパーティーに顔を出した渡辺氏は「大連立構想」が実現すると旧津島派の国会議員に上機嫌で語っていたなどともなっていたが、それは違う。中曽根、渡辺両氏はすでに会談が決裂する前提でしゃべっていて、あの時、あれだけすったもんだして結局会談が決裂した後の日曜日の放送も、なにも調整する必要はなかったのだ。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞