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TBS NEWS

2019年12月15日

中曽根康弘元首相のこと(7) ~「時事放談」の思い出

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 「大きな枠組みが必要だ・大連立入門」と題した、その日の番組では中曽根氏が海軍経験があるということで、防衛省の売店に買いに行って、売っていた「海軍カレー」をお茶請けに出してみたんだっけ。

 「日本では、横須賀海軍からカレーが始まった、といわれていますが、今日のカレーはそのときのレシピで作られた物です。『今でも海上自衛隊では、毎週金曜日はカレーと決まっているそうです。レトルトで2人前840円』などとの紹介のもと中曽根氏に水を向けると「もうだいぶ前ですけどね、昭和16年頃から軍艦乗って、それ以来から食べたんじゃないですかね。だからカレー好きですよ」と言って笑った。

 一方、渡辺氏は「僕は子供の頃にお袋の作ってくれたカレーが好きで、今でも、土日は、女房が病気ですから、インスタントや、缶詰に入ったカレーを必ず土曜か日曜は食べますね。お袋の味ですよ。こちら(中曽根氏)は海軍の味と」と言って笑った。そして、「僕は陸軍2等兵ですからね。そんな高級な物は食べさせてもらえなかった。こんな高級は物、1度も食べたことない軍隊では」と付け足した。

 そして、御厨氏が、渡邉氏の著書「私の履歴書 君命も受けざる所あり」という本の二人の出会いについてのくだりを読んで見せた。

 「正力さんから、ひとつ命じられたことがあった。それは中曽根さんに会うことだった。しかしいかにも社主の命令であっても、そんな気になれなかった。当時の基準だと私はハト派。対する中曽根さんは『憲法改正の歌』などを作る超タカ派とされていたから心情的に会う気になれなかったのだ。すると正力さんは『中曽根に毎日会っているか?』『いえ、会っていません』『馬鹿者、なぜ俺の命令を守らんのだ。いますぐ会え』仕方なく名刺を持って国会近くの議員会館に中曽根さんを訪ねた」

 「派手な行動で『青年将校』の異名を持つ中曽根さんだったが、会ってみると、巷間言われているのとはまったく違う印象だった。そもそも、政治家には珍しく読書家で歴史、政治、哲学と知識も該博だった。誠実は人柄に8歳年上の人物と言うことも忘れ、すぐいうち解け親しくなった」

 そして、御厨氏が「今、中曽根さんは89歳。渡邉さんは81歳ですけども、この出会いは何歳頃だったんですか、渡邉さん」と尋ねると、渡辺氏は「20代の終わりですね」と答え、中曽根氏は「33歳ですね」と遠くを見るように答えた。

 中曽根氏は渡辺氏の第一印象について「実に鋭い人だと、しかし、話をしているうちに東大の哲学を出ておられている、思想と哲学に非常に深いですね。いわゆる、普通の新聞記者とは違うところがあった。私はそれに感銘しましてね、私もだいたいそういう本が好きで、特にカント哲学。そういう物に心酔しとった。ナベツネさんもカントの方にだいぶ傾いているんじゃないかと、そういう同学を勉強しあう、仲間という印象で付き合いが始まったんですね」と懐かしんだっけ。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞