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TBS NEWS

2019年12月13日

中曽根康弘元首相のこと(5) ~「時事放談」の思い出

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 中曽根元総理と土井高も元社会党委員長の白熱の議論が続く中、司会の井岩見さんが「憲法についての土井さんの基本認識ですね、簡潔にひとつ…」と水を向けた。すると「簡潔」になるべくもなく、土井さんはまくしたてたっけ。

 「基本認識ですか…これは憲法に対しては立憲主義という日本の政治ですよね。憲法によって政治を治めるという、憲法に沿って政治を行う、それはやはりなんと言ってもその政治を扱っている為政者がどういう姿勢で臨むかっていうことが中身としては大事な問題になります。今の憲法99条はそのことを認識して国会議員、それから閣僚ももちろんそうですが、憲法尊重、擁護の義務があるわけなんですね。つまり政治家を縛っているわけですよ。政治家に対して規制をしているわけですね。それは何かって言ったら、国民の人権を保障する、憲法が定めている中身に従って政治を行う、そういうことに規制がある、政治家には。従って政治家が自分たちのやってきたことに対して憲法がそぐわなくなったから、憲法を変えよう、不都合だから変えようなんてことはこれはむしろおかしい。

 土井氏の話は止まらない。「国民の中から憲法を一生懸命に今まで守るための努力をやってきたけれども、どうもここのところはもう一つ足りませんねという風な声が轟々と起こってくれば、それはそれで改憲っていうことを考えるひとつのきっかけだろうと思いますよ。けれども日本は、大日本帝国憲法、そしてただいまの日本国憲法いずれも前者は維新、今の日本国憲法は敗戦、こういう大改革って言っていいですよ、大革命って言ったっていいですね。そういうことを気にして憲法が改められたわけですね。今度憲法を改める、ただ今なんですかこれ?私はこれのきっかけを、しいて言うならば、やはり顕著になってきたのは96年、いわゆる日米安保条約の新ガイドラインから、周辺事態法、テロ特措法、イラク特措法、そしてただ今の有事法制、武力行使の問題ついてもずんずんずんずん範囲が広がっているじゃないですか。とどまることをしらない。アメリカの世界戦略に対してやはり日本の第9条を中心にして考えなければならない問題がずれちゃっている。日米安保の中身から考えても、5条、6条からすればそこまで決めておりませんよというところまでいっちゃっているのが現状ですよお」と語った。

 ここで、アシスタントの小島慶子氏が、中曽根が1956年に作詞をし、東京宝塚劇場で発表されたという「憲法改正の歌」を紹介したのだ。

 歌詞は「嗚呼戦に打ち破れ/敵の軍隊進駐す/平和民主の名の下に/占領憲法強制し/祖国の解体計りたり/時は終戦六か月」「占領軍は命令す/もしこの憲法用いずば/天皇の地位うけあわず/涙を呑んで国民は/国の前途を憂いつつ/マック憲法迎えたり」「十年の時は永くして/自由は今や還りたり/我が憲法を打ち立てて/国の礎築くべき/歴史の責を果たさんと/決意は胸に満ち満ちてり」などと続くのだ。

 司会の岩見隆夫氏氏が「1956年、昭和31年。随分あちこちでお歌いになったでしょ」と尋ねると、中曽根氏は「いやいやあの頃は歌いましたがね。鳩山首相も一緒に歌ったね」と懐かしんだ。

 そして「土井さんのお考えを聞いていると、憲法というのは改正してはいかんものだと。戦争前に改正してはいけない、改正してはいけないと考えでおるのかなと…。96条には憲法改正条項というのがある。憲法改正条項っていうのがある以上は憲法自体がまずくなったら改正してくれと、そういうことを言っているわけですよ。今の事態を見ると、イラクの問題ひとつ見ても、憲法9条、その他も瀬戸際の段階にあるでしょう。それからあるいは9条だけでなくて他の条項でも今すでに憲法違反をやっているというのは、例えば公の資金をしゅやくや福祉に使ってはならんと、しゅやく補助金で何千万、何千億という金を出しているでしょ。これは回り見てきて脱法行為やっているんですよね。そういうような不条理なものが各所に見えているので、その上に時代が動いてきて、そうして国民自体が改正しようとそういう段階になっているんですから、やはり政治家たるものは国民の意見に従って、また国民と一緒に介すべき段階にきていると私は思いますね」ととうとうと語った。

 すると土井氏は「ちょっと言わせてください、ちょっと待ってください。私は、何だか憲法に対して指一本触れたらいかんようにおっしゃる方があるんです。そのようにあなたは思っているんでしょうと、おっしゃる方があるんです。とんでもないことですね、これもまた。そして憲法の改憲というのを望まない、そうじゃないです。今中曽根先生がおっしゃったけれども、96条にあるのは改正手続きでして、改悪手続きではない。憲法に対して、これはやはり変えなければならないというこの認識があるという状況が今の憲法を尊重して、そしてしっかりその中身を生かしていくという努力の中で、この憲法ではまだ足りないと、もっとさらに進んだ人権の中身にしていこうということが初めて生きるんであって、今の憲法に対して尊重擁護の反対ですよ。粗末に扱って憲法違反と国民のみなさんから轟々たる声が出ましても、国会で強行採決して法案を通すようなことをやって、その通した憲法違反だという疑いが濃い法律にあわせて憲法を変えようって言うんですから、これは改悪としか言うようがない。これは私は反対なんです。改正には賛成なんです」と語った。

 この、土井氏が「改正」に賛成だというのは、翌日の新聞の朝刊に載ったっけ。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞