NEWSの深層

TBS NEWS

2019年12月10日

中曽根康弘元首相のこと(2) ~「時事放談」の思い出

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 2004年4月、の放送だった。時は、2003年12月、イラクに自衛隊を派遣した直後だった。議論に入ると宮沢氏と中曽根氏は冒頭から激しくやり合った。

 宮澤氏「最終的な国益を考えて自衛隊を出されたんだから、それは総理大臣のされる仕事であって総理大臣しか出来ない仕事で、そのことについて言うつもりではないです。ただこの戦争そのものには色々問題が明らかにある。大量破壊兵器が発見されていないし、9・11というものとサダム・フセインとは直接関係がないということもどうやらはっきりしているし、安保理事会で決を取らないで勝手にどんどん先に行っちゃって、おまけに先制攻撃をしたわけですから、それらには色々問題があるんだということを私は言おうとしている」。

 中曽根氏「私はちょっと違う。イラクに武力行使をやったと、そのときにはすぐにアメリカを支持しましたし、小泉くんにも早くアメリカを支持しなさいよとそういうことも助言しましたね。それは対極的に考えてみて、今日の事件だけでなく、21世紀に対してどういう影響を持つかということも政治の判断でなくちゃならない。だから私が言うには、国際法も大事だと、国際法も50%、そのほかにこれが歴史的に後世どういう影響を持ち、意味を持つかと。それから日本の利益に対してなるかならんのかとか、ものさしを長くしてこれを見てそのときの臨床的反応だけでみるのではなく、どういう性質の病気をどうしたかと、そういうような判定も入れて判断をするのが政治家の役目だと、学者と違うと。そういう意味において思い切ってやったと、これはある意味においては21世紀に出てくるテロを先に向こうを怖がらせて、手が出ないようにさせるという手もあるし、北朝鮮問題について日本としてもアメリカが失敗したら非常に困ると。北朝鮮が6カ国協議に思い切って入ってきた、そういう面から見ても日本の国益がかかっている。そういう意味からも長い目で見て、ものさしを歴史のものさしという面で見てこれを支持した。今でもそう思ってますよ。ただアメリカのやり方自体が占領政策というのが下手である程度うまくいかないのは決まっていた。アメリカ人には植民政策の経験もないし、ドイツやフランスやロシアと違いますからね。だからそのときに日本がこうしなさいよ、ああしなさいよとそれをやってもらいたかったと思いますよ。しかし、いよいよサミットが来るから絶好のチャンスだと。今から準備してやりなさい、そういうことを申し上げている」。

 中曽根氏は、滔々と持論を展開した。しかし、宮沢氏もだまっていない。

 宮澤「今の話の続きで言えば、国際法の話も確かにあるが、結局この仕事はみんなでやらなくてはいけない仕事なんですよ。アメリカ一国だけではできない。それは戦争そのものは出来たかもしれないけど戦争後っていうのは初めから分かっているわけだから。アメリカ一国では出来ないって分かっているのに、おれがやるからみんな見ていろといったようなそういうことではうまくないなということなんです」。

 そして、中曽根氏は日米関係について語ったっけ。

 「冷たい戦争時代には、アメリカの枠の中に収まって、昼寝していてもいいと、温室にはいっているものだと、ロシアの大圏の中に入っても温室に入っていると、ところがロシアが崩壊して、それで散り乱れたとみんな各々が自分で生きていかなくちゃいかない。そういう段階になってそれが90年代ですよね。日本はそれを漂流してしまった、総理大臣が10人もかわったものだから。そういう意味では、今ようやく漂流を止めて、小泉くんが一生懸命やりだしていると、小泉くんには今言った外交やら安保政策が非常にいいと、もう一つは漂流を止めたという功績がある。だけれども国の基本問題を彼は手をつけない。目先の道路と郵政しかやらない。そういう欠点もある。しかし日本がそういう意識を持って、そしてこれからのアジアの関係、東アジアの政策、宮澤さんが申された中国との関係というのは最大の問題。それで中国がこれから発展していくとね、昔は米ソ関係というのがあったでしょ、その間に日本は挟まれていた。あと10年か20年すると米中関係というのにかわるかもしれない。その間に日本が挟まれてどうするか、そういうこともないとは言えない。そういうことが行われないように米と中と日本といつも話し合ってものを進めていくと。それがアジア全体の経済共同体というか、東アジアのアセアンより北の3つが仲良くして共同体を時間をかけて作っていると。そういうもとになるためにもアメリカとよく話し合いをして、今の関係についてはアメリカが賛成するようにして、そういう関係を作っていくのが日本の外交だと思います」。

 15年前の発言だと思うとその洞察力は舌を巻くとしか言いようがない。

 実は、この顔合わせ、番組を始めるにあたって、中曽根康弘元総理、宮沢喜一元総理、後藤田正晴元副総理、野中広務元官房長官、塩川正十郎元官房長官らをレギュラーに2人ずつをスタジオに招き、「本当のこと」を語ってもらうとの番組の狙いを語った時に、「ニュース23」のキャスターをしていた筑紫哲也氏から「こんな本があるよ」と手渡された本がきっかけだった。「憲法大論争改憲VS護憲」と題して、中曽根、宮沢両氏が憲法9条などを論争するのだ。ぜひ、そんな、姿をお茶の間に届けたいなと、記念すべき「第1回目」に企画したのだ。この二人が、テレビの画面にそろって出るのは私の知る限りこの時しかない。収録の時に、熱い、議論に副調整室で手に汗を握ってみていたのが昨日のようだ。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞