NEWSの深層

TBS NEWS

2019年12月9日

中曽根康弘元首相のこと(1) ~「時事放談」の思い出

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 その日、中曽根元首相の訃報を聞き、あの日のことがよみがえった。

 15年も前のことなのだが、昨日のように天然色だった。そう、日曜朝の政治番組、時事放談の記念すべき2004年の4月の第1回目にスタジオに招いたのは中曽根元首相と、宮沢元首相だったのだ。「改憲派」と「護憲派」の両論客がTBSのスタジオの敷居をまたぎ、新しくしつらえた和風の机に並んで腰かけた日のことを担当者として忘れない。

 これに先立つ番組の立ち上げについての、打ち合わせでは、旧砂防会館の事務所の一番奥にある部屋で、南窓から昼下がりの陽が差し込む中で、笑顔で出迎えてくれたっけ。

 真反対の宮沢氏との対談に「憲法の話かい」「時間は何分かな」などと、興味深く話を聞いていただいて、今後、番組のレギュラーゲストとなることを快諾してくれた。部屋には、日の出山荘でのレーガン大統領との写真が飾ってあった。

 収録では岩見隆夫氏の司会で「引退なさって一番変わったことは」と、水を向けることで始まった。そう、小泉総理の下、終身1位を約束されていたのを引退勧告を迫られ、「政治的テロだ」との反発するも、引退した後だったのだ。

 スタジオで中曽根氏は「モーニングを脱いで、こういう背広にかわったから、非常に気は楽になった。一番変わったのは忙しいってことですよ。辞めてから3か月ぐらいはインタビューとかなんかでそれに振り回されて。それからお正月以降は講演が殺到してきて。声も前よりよくなった」と話したっけ。

 実はその後14年半にわたって使うことになる和風のセットは、日の出山荘をイメージして別荘にお客を招いてざっくばらんに話をするとのコンセプトでTBSの熟練の美術スタッフが考えてくれたもので、背景に抜けて見える山は中曽根氏の地元、群馬県の赤城山だったのだ。

 その後、175回にわたる放送で恒例となる「お茶請け」で、最初はバナナだった。

 事前に、好物だと調べて用意したのだが、かいがいしくも小島慶子氏が前に置くと、中曽根氏は「今出されてね、思い出したのは私は玉子焼きとバナナが好きだと・・・。バナナは総理のとき、忙しくて昼飯の時間がないですよね。総理の私の部屋の引き出しの中にバナナを入れておいてお昼になるとそれをかじって昼飯の代わりにした」と満面の笑みで話し出した。

 そして、「そういう話を胡耀邦が聞いてて、正式招待で中国に行ったときに中南海の彼の満面の笑みで話し出した自宅に呼んでくれて、親戚も大勢呼んでね、大変ご馳走してくれたんですよ。そうしたら私が玉子焼きとバナナが好きだというのを知っていてね、玉子焼きとバナナをワーッと持ってきてくれたね。中国もお客を喜ばすのにそこまで事前に勉強し、用意したというのは驚くべきことだと思いましたね」。

 このバナナが、その後175回続くことになる、最初の「お茶請け」だったのだ。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞