NEWSの深層

TBS NEWS

2019年5月27日

「あの朝のこと」 ~新たな「時代」と「ポスト安倍」の誕生の裏側(4)

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 そして、いよいよその時はやってきた。官房長官の秘書官らが壁際に座ると、官房長官が正面の会見台でマイクの前に立った。昼前の11時半だった。誰もが額一点を見つめるはりつめた緊迫の空気が会見場をおおった。その中、菅長官は「新しい元号は『れいわ』であります」と、これまで見たこともない緊張した表情で話し口を真一文字にして力を込めた。そして、台の上に置いていた「令和」と書いた濃い茶色で枠取りした額縁を持ち上げ左斜め前方に少し傾けて掲げてみせ、そして、右斜め前方に掲げた。

 会見場内には激しくシャッター音が鳴り響き、「今度は額縁を台の額盾に置くんだろうな」と見ていると、また左斜め前方に傾けて見せ始めたのには驚いた。そして、改めて右斜め前方に掲げて、秘書官に手渡した。秘書官は額縁をうやうやしく受け取り、金色の台の上の額盾に置いた。見ている方にも緊張が伝わり、ずいぶん長く感じた。

「行き詰っている」(後藤田正晴氏)

 「今、議会制民主主義の危機なんですよ。それから、日本と言う国自身が内政、外交ともにね、行き詰ってますよと。これを頭において打開してもらいたい」(時事放談2005年7月17日)

 そして、菅長官は会見台の両脇を握りしめ「この新元号については、本日、元号に関する懇談会と、衆議院および参議院の議長および副議長の意見を伺い、全閣僚において協議の上、閣議において決定したものであります」と一語一語メモをにらみながら話し出した。シャッターの音に加えて満席の記者らのパソコンを打つ音がカシャカシャとけたたましく始まる中、菅長官は「新元号の典拠について申し上げます」と区切ると「令和は万葉集の梅花の歌三十二首の序文にある、初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす、から引用したものであります」と力を込め、「この新元号に込められた意義や国民の皆さんへのメッセージについては、この後安倍総理の会見があります」と話した。

 その後「2問まで質問を受け付けます」とあり、どこやらの記者が「新しい元号の選出で…」などと聞きだしたのだが、カメラのシャッター音とパソコンの打ち込む音が激しすぎて聞こえないのだ。「記者も興奮していつもより強くたたきこんでるのかしらん」などと考えたりした。菅長官は「今般決定された新元号が広く国民に受け入れられ、日本人の生活の中に深く根ざしていくよう努めてまいりたいと思います」とまた口を真一文字にして力をこめた。そして、どこかの記者が今度は「長官は有識者懇談会、正副議長からの意見聴取、全閣僚会議と意見を聞いたが、その中で原案はいくつ示されましたでしょうか。候補名と合わせて教えてください。また、それぞれどのような意見が出て、どのように結論に至ったのでしょうか。具体的に教えてください」などと、答えるはずがないのに「無理筋」の質問をした。

 菅氏は、手元の資料を見ながら「意見聴取の場で、どんな意見があったかについて答えることは差し控えたいと思う。新元号が日本人の生活の中に深く根ざしていくためには、他の案と比較して議論されることは適当ではないと考えており、新元号として決定されたもの以外の案については、その数も含めてお答えは差し控えたいと思います」とかわし、パタンと資料を閉じて「ありがとうございました」とここでやっと安どの表情を見せ、ぞろぞろと秘書官を引き連れ、退席して行った。この間、15分。

 「やっぱり」と思った。前に国会トークフロントラインに出演した際に(1月18日)控室で感じたこととクロスしたのだ。

 その時、打ち合わせをしながら談笑しながらもどこかオーラが出ていたのだ。「担当していたころの往年の野中官房長官と同じだ」と感じると同時に、野中氏がその後ポスト森総理で総裁選出馬に意欲を見せたことを思い出していたのだ。

 古い知人は「官房長官は総理の姿をそばで見ると同時に、多くの仕事を自分がこなすから意欲をもつようになるものだ」とも語っていたっけなどとも思った。今の姿は、「平成」を発表して注目を浴び、後に総理にのぼりつめた小渕官房長官を念頭において、「勝負に出たんだ」と勝手に思ったのだ。

「志を立てて」(後藤田正晴氏)

 「志を立ててオレがやる、こうじゃなきゃこの難しい政治の時代に、リーダーになれるわけがない。棚から落ちてくるのを待つというのはダメだ。覇気がない」(時事放談2005年7月17日)

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞