NEWSの深層

TBS NEWS

2019年5月24日

「あの朝のこと」 ~新たな「時代」と「ポスト安倍」の誕生の裏側(3)

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 記者会見室に入ると、昼の官房長官の会見まで30分もあるというのにすでに気の早い記者がいっぱいで、空いてるように見える席もすべて名刺などが置かれ、場所取りされていた。しかたがないので、会見場の後方の壁の前に陣取っていたNHKの大型の中継カメラのわきに体を滑り込ませた。カメラマンは脚立の上にのり、カメラを緊張の面持ちで覗き込み、その周りを4人の技術スタッフが取り囲んでいた。「なんとも大掛かりで、さすがNHKだわい」と妙なことに感心したりした。

 会見場の正面には会見台が据えられ、向かって左側には日の丸の国旗が飾られ、そして右側には金のカバーをした台があり、その上にアクリル板の額盾が置いてあった。まもなく、あの上に「新しい元号」が立てかけられるというわけだ。

 すでにNHKの特別番組は始まっているようで、カメラの上の赤いランプが時折つくので、モニターを覗くと、「会見台」を映したり、「わきの台」を映したりと、会見場の様子をゆっくりと順番に映していた。そんな中、スタッフが手をかざして「アイフォンやるかもなあ」などと心配顔で話すと、もう一人が「『額』を見せるときは、記者も書く必要がないから手が空くもんなあ」などと応じた。記者がアイフォンをかざして撮影を遮るのを心配しているのだった。そして、カメラマンはインカムに「会見自体どうやるかわかんないから、中で判断してもらえますか」と話しかけていた。

 発表までの作業は順調に進んでいるようで、モニターには今度は、なにやら官邸から皇居に報告にいくのであろうか、出ていく黒塗りの車が映し出されていた。会見場のスピーカーからは「報道室からです。記者席からの写真は禁止となっています。よろしくお願いします」と呼びかけがあり、目の前のカメラスタッフは顔を見合わせ安どの表情を見せていた。

 そして、いよいよその時はやってきた。官房長官の秘書官らが壁際に座ると、官房長官が正面の会見台でマイクの前に立った。昼前の11時半だった。官房長官は緊張の面持ちで「先ほど閣議で元号を改める政令、及び元号の呼び方に関する内閣告示が閣議決定された」と一語一語かみしめるように資料を読み上げた。そして、額をもって秘書官が歩み寄り、手渡した。

 誰も口をきかないで額一点を見つめるはりつめた緊迫の空気が会見場を覆った。官房長官は元号を書いた方を下にして、裏返しのまま会見台の上に置こうとしたのだが、ここで思わぬ瞬間が訪れる。額が台に密着する瞬間、ごくわずか額が上向いたのだ。会見場の後ろの端で立っていても、元号の文字の上部の三角部分が見えたのだから、記者席の最前列では見えたかもしれないのだ。最初の文字は「命」だと思った記者がいたと後から聞いたが、とんでもないハプニングが起きるかもしれなかったのだ。

 菅長官は「新しい元号は『れいわ』であります」と、これまで見たこともない緊張した表情で話し口を真一文字にして力を込めた。そして、台の上に置いていた「令和」と書いた濃い茶色で枠取りした額縁を持ち上げ左斜め前方に少し傾けて掲げてみせると、緊張で張りつめていた会見場内に、思わず「オーっ」とどよめきが起きた。そして、しばらくすると今度は右前方に傾けて掲げた。この間、会見場内には激しくシャッター音が鳴り響き続けた。

 国会トークフロントラインで片山元総務大臣は「令和にすべき5つのこと」を上げた。3位は「地方自治」だった。

 「私、とっても気になるんですね。あのー、地方自治っていうのは、まあ、国の礎なんですね。国は中央は外交とか防衛とか金融とかマクロ経済とかそういう大事なことをやんなきゃいけない。内政はできるだけ地域のことは地域で責任を持って処理するっていうのが、これが原則なんですけどね、どうも最近見てますとね、自治体でその地域のことでありながら、自分たちで決められなくって、国に決めてもらうとか、国から指図を受ける、そういうふうな状態にどうも陥ってるんじゃないかと思われるんですね。

 例えばですね、去年、文科省がですね、全国の教育委員会に通知を出したんですね。ランドセルが重過ぎるんじゃないかと。で、こんなランドセルが重いかどうかなんてのはね、学校で先生と保護者とそれからまあ児童・生徒ですね、そこで決めればいいことですよね。だって学校でそういう重たいんならば重たいような状態にしてるわけですから、自分たちでじゃあ軽くしようねってやんなきゃいけないのに、それを文科省が通知を出して、重た過ぎるんじゃないのって。結局、地域で決めるべきことが決められなくって、多分、苦情が国のほうに行くんだと思いますよね。

 地域のことを責任を持って決めるのが地方自治ですよね。そうするとね、地域のことを真剣に考えるわけですよね。考えるとね、やっぱり今の国の制度とか、仕組みがおかしいってことにぶち当たるんですよ。そうするとね、いっぱい文句言うことがあるんですよ。文句を言ったり改善の申し入れをしたりすることがあるんですね。今、見てますとね、もう国が言ったことをそのままもらい受けてやると。

 例えば地方創生だって言ったら、総合戦略つくれって言ったらみんなおんなじようなものをつくって、プレミアム付き商品券がいいよって言われたら、みんなそれをやるわけですよ。それで効果があればいいですけど、効果がないんですね。結局ね、自分たちの地域のことを真剣に考えることをちょっとお休みして、国の言うことを聞いておけば金がもらえると。じゃあそっちの方向でいこうねみたいなことになってしまってるんじゃないかなと思うんですね」

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞