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TBS NEWS

2019年2月12日

「怒れる長妻議員」の裏側 ~スタート「波乱」の通常国会

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 衆議院予算委員会の初日、小泉進次郎議員の「熱い質問」を終えて、野党の質問は午後に始まる。この間に「お昼ご飯」を食べるには、やっぱり国会の中の食堂がありがたいのだ。国会議事堂の南側に位置する、衆議院別館は、さっきまでの予算委員会など大きな委員会以外が開かれる4階建てなのだが、その一階の奥に、昔からずっとやっている(旧社会党担当のころからすでにあった)知る人ぞ知る名店喫茶室「あかね」がある。

 席も20席ほどの、手狭な佇まいなのだが、南の窓から冬の日差しが注ぐ、国会関係者のくつろぎの場所だ。名物は「マトンカレー」だ。安くて、美味なのだ。

 昔は、内またで歩くおじさんが、各党の会議にここから廊下の赤じゅうたんの上を手押し車でコーヒーを配って歩くのがなんとも「ほのぼの感」を醸し出していたのだが、今でも「マトンカレー」の味は引き継がれていて、昼時は店の前に行列ができる人気なのだ。見回すと、見たことがある政治記者が、なにやら小声で話しながらマトンカレーを掻き込んでいた。委員会が始まる午後1時を過ぎれば、「昼休み」になったSPらがさらに集まって、またもや店前の行列となるのだ。

 委員会室に戻り、記者席の最前列に陣取ると、質問を控えた立憲民主党の長妻昭議員は目の前の委員席の端に着席してコップの水を半分飲んで、付箋をたくさん挟んだ資料の束を前に、目をつぶって思案気だった。そして、定刻になると質問席に立ち、安倍総理を前に冒頭から怒り出した。さっきまで、目をつぶっていたのは怒っていたのだ。

 「不正統計」を最初に根本大臣に報告した「真相究明のキーマン」と目される、当時の大西政策統括官が、4日月曜日の予算委員会審議を控えた前の週の金曜日に突然更迭され、参考人として出てこないことをなじった。「私はきょう非常に問題だと思いますのは」と声を張り上げ、「今日突然、私が木曜日にですね厚生労働省にこの方もお呼びしたいんですと申し上げましたら、翌日の金曜日の朝に更迭されて、官房付になったと。そうしたらば官房付は呼ばないんだということで、これ別に理事会で決めれば呼べるわけですね。これはなぜ呼ばないんでしょうか、委員長っ」と声を張り上げた。そして、いきなり委員会室は野党のヤジで騒然となり、野田委員長は「ただいまの件につきましては、既に理事会で協議中です。改めて後刻理事会で協議をしていただきます」と、なだめた。

 これに、収まらないのは長妻氏で「これは協議中といっても私、その質問で組み立ててきてるんで、一旦ちょっと中断して、もう一回協議していただけませんか」と、委員会審議を中断し、改めて理事会を開いて与野党で協議し、大西前政策統括官の参考人招致を認めるよう迫った。野党から拍手が巻き起こる中、野田委員長は「このまま続きやりましょう」「長妻議員にお願いいたします。既に委員会はじまっておりまして、この参考人については、理事会にてこの状態で進めさせていただくということで始まっております。ご了承いただいて、質問をお続けください。委員長としては、理事会で協議の末、現在のこのような参考人のリストで進めさせていただくということで委員会を再開いたしました。ですから、これに従って今日はこの参考人のリストで」と、諭したのだ。これに野党からは「やる気がないって思っちゃいますよ!」「真相究明する気がないんですか皆さん」などと声が上がり、ますます沸騰する始末だった。

 騒然とする中、 困惑の表情の野田委員長は「長妻委員。先程理事会で協議をいたしまして、きょうはこの参考人のリストで委員会を再開することを決めております。ですから、止める必要はないと思います。質問を続行してください」。「既に理事会でこの委員会、お昼に協議いたしました。で、協議の結果、決裂せずに委員会が再開してるわけであります。ですから、その前提に基づいて、ぜひ質問を出してください」と諭すのだが、委員会室内の「炎上状態」は収まらなかった。そして、長妻氏は「いや委員長ね、さっき継続中だって言うから、1回中断してここで今結論出してください」などと、理事会の再開を繰り返し求めて大声を張り上げた。

 これには、野田委員長も「参考人のあり方について協議中です。後刻また理事会で協議いたします。本日の参考人については、委員会再開したことによって、質問を続けてください」と改めて、諭すのだが、野党席からは「だめだって」「与党やる気ないんだよ。一緒になって隠蔽してるじゃないか!」「一番知っている人をなぜ参考人にしないんですか」「参考人隠しじゃないか」と大騒ぎになった。困惑の表情の野田委員長は「長妻さん、質疑を再開してください」と促すのだが、長妻氏は「1回ここで休憩して、結論を出してくださいと申し上げている」と引き下がらない。野田委員長は「それには及びません。ぜひ質問を続行してください。参考人のリストについては理事会で与野党各理事で見ていただきまして、そしてこれについての拒否はございませんでしたので、委員会を再開してるわけであります。ですから、質疑を続行してください」と、改めて苦渋の表情を見せた。

 「政府・与党の意向」を背に「板挟み」の野田委員長との押し問答の繰り返しに、長妻氏も困惑の表情で「うーん、なぜなのか。これ総理にですね、ちょっとお伺いしたいんですが、総理は自民党総裁という立場でもございますけれども。ぜひ総裁の立場からですね、前向きに検討しろと。国会改革っていうんであればですね、こういう参考人呼んでくださいよ」とさとし、野党から「そうだ!」との声が上がった。これに安倍総理は「私は、内閣総理大臣としてこの場に立っているわけでございまして、ただいまのこの参考人のやりとりを今ここで初めて知ったわけでございますので」などと、不自然をものともせずヤジの中で語り続け、「お答えのしようがないわけでございます」などと釈明した。委員会室が騒然とする中、「それは、国会の運営でございますから、国会の運営でございますから、まさに委員会でお決めになることだろうと、このように思います」と、木で鼻をくくったような説明をした。そして、「真相究明のキーマン」なきまま、延々と質疑は続いた。

 続く、立憲民主党の大串博志議員も憤然たる様子で「不正統計問題」を質したが、途中、麻生財務大臣の「発言」について水を向けた。麻生財務大臣が地元の集まりで、少子高齢化問題について「子供を産まない方が問題だ」などと発言していたのだ。大串氏は「麻生財務大臣、昨日福岡で開かれた会合で、少子高齢化問題に対して、『いかにも年寄りが悪いという変な野郎がいっぱいいるけれども、間違ってますよ。子供を産まなかった方が問題なんだから』とこういう発言をされてますね。少子高齢化、非常に国として大きな問題です。だからこれに対してはどういう原因で、どういう事実関係でこれがなってるのか。ということを分析した上で、その認識のもとにやらないと、正しい解決策には私至らないと思います」と力を込めた。そして「にもかかわらず、中枢大臣である財務大臣が、『子供を産まなかった方が問題なんだから』。なんですかこの発言は!多様な生き方を認めなければ」と声を強めたのだが、なぜか麻生大臣はにやにやと笑っっていたのだ。これには、たまらず大串氏は「何を笑ってるんですか大臣っ!ニヤニヤニヤニヤっ!こんな問題大きいときに」と怒鳴った。

 そして大串氏は「多様な生き方がね、認められなければならない。あるいはカップルの方で子供を持ちたいと思って一生懸命不妊治療もされている中で、どうしても結果がでない。私の友達でもいました。本当につらい思いされてるんですよ。それをですね。『子供を産まなかった方が問題なんだから』。極めて私は不適切な発言だと思いますよ。これは撤回されて謝罪されたほうがよくないですか」と声を張り上げた。

 これに麻生大臣は、メモを手に「御指摘の発言は、申し上げた話の内容とはずいぶん、だいぶ長くしゃべりましたんで、その中で少子高齢化の問題は少子長寿化いうこととして一つにくくられてますけれども、高齢化とか長寿化とかいうのが問題というよりは、少子化のほうが社会経済への活力とか、社会保障とか財政の持続可能性の脅威となるんだということを申し上げたというもんであって、、、」と早口で話しだした。そして、「全体を聞いていただければその主旨は御理解いただけるもんだと思いますが、私の発言の一部だけが報道されて、あの本来の発言の趣旨が伝えられずに誤解を与えるようになったというようなことなんだと思います」と語り、野党から『誤解じゃないよ』などと声が上がった。それでも、「そういうようにとられたというんであれば、その発言は今後気をつけたいと思いますし、そういった発言だけをとられたというんだったら撤回をさせていただきます」とし、ヤジが飛ぶ中「いずれにしてもこの少子化問題というのは、これは家族のあり方に関する多様性が尊重されるべき点とか、子供を生みやすく、または育てやすい環境をつくっていくということが重要なんだと考えている点では当然なんだというように考えております。誤解を与えたとすれば撤回させていただきます」と繰り返した。 激しくヤジが飛び交う委員会室の様子を眺めながら、「予算委員会の初日からこれじゃあなあ」とすっかり暗い気持ちになった。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞