NEWSの深層

TBS NEWS

2019年2月7日

「帰ってきた小泉進次郎」の裏側

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 通常国会が始まり、総理が施政方針演説を行い、それに対する各党代表質問、そして、一問一答形式の衆議院予算委員会での本格論戦となる。

 「統計不正」問題で野党が激しく追及する中、自民党が初日の審議で起用したのは政界の人気者、小泉進次郎 自民党厚生労働部会長だった。ならばと、朝から始まる質疑を見ようと国会に足を運んだ。そして、「腹がへっては戦はできぬ」とばかりに、隣の参議院の渡り廊下の下にあるローソンに向かった。

 通路の手前には洋服屋さん(ここで買った2500円のネクタイは今でも愛用している)があって、その先がローソン、そして本屋さん、いちばん奥の突き当りがそば店だ。

 衆議院のそば店の名物が「野菜炒めそば」であるのに対し、参院の名物は「もりそば大盛」だ。そばにコシがあると衆議院からわざわざ足を運ぶ議員も多く、社会党担当のころに、土井委員長と秘書の昌子さんと同席したこともあったっけ。

 サンドイッチを買って歩いていると、本屋さんで朝も早くから小太りのおじさんが忙しく働いていた。かつては衆議院の地下にも本屋があったのだが閉店の憂き目となり、議会史や政治関連の本など、おじさんの見識で充実した品揃いの参議院のこの本屋がいまだに流行っているのだ。

 ふと見ると、入り口の本棚のわきの目立つところに、「人生100年の国家戦略」「誰も書けなかった小泉進次郎たちの『国家観』」などとの張り紙があった。「国会の中でも進次郎人気なんだなあ」などと思ったりした。

 予算委員会の部屋に入ると、野田委員長が光沢のある水色のジャケット姿で委員長席に座り、紺のスーツに紺に白のストライプのネクタイを締めた安倍総理が答弁席に立ち、すでに自民党の質問は始まっていた。

 小泉氏が間もなく質問に立つとあって、カメラマンの席には多くのテレビカメラや新聞のカメラマンが集まり、昼ニュースや夕刊に向けて、シャッターチャンスを逃すまいと、取材スペースは早くも高揚していた。

 午前10時を過ぎ、小泉氏が部屋に入ってくると、盛んにフラッシュが光った。その中、動じる風もなく資料を手に持った小泉氏は、最後部の傍聴席に座った。

 人気者とあって、若手議員が順繰りに隣に座って話しかけ、何やら言葉を交わしたりしていた。傍聴席の後ろにある水差しの水を取りに来た石破茂氏も手を挙げて合図すると、小泉氏もぺこりと頭を下げ、その後しばらく話をしていた。

 10時35分に小泉氏が質問席に立つと、さらに激しくフラッシュが光った。 小泉氏は「私が予算委員会に立つのは6年ぶりです。自民党が政権復帰して間もないころだった。TPPついて交渉すべきだと言った」などと感慨深げに語り出し、「安倍政権のレガシーとしては世界と自由貿易でつながることは大きいのでは」などと、安倍総理のTPP実現を持ち上げた。

 これに、安倍総理は「6年前、まさに小泉議員から『総理が決断すればできる』と半分脅かしともいえる質問をいただいた」と相好を崩し、自民党席から笑いが起きた。

 そして、小泉氏は「総理の決断。『あの時やっといてよかったなあ』と、『国会改革やっといてよかったと』」と話し出し、持論の「国会改革」に話題を移した。 そして居並ぶ大臣らを前に「テレビを見ている国民は、質問がなくても7時間ずっとこの部屋に座っているのが、本当に国民が求める大臣の働き方なのか」と語り、自民党席から「そうだっ」と声が上がった。

 小泉氏は、外務大臣として外国出張を望みながら国会日程との調整に悩む河野外務大臣を指名し、河野大臣は我が意を得たりと、アメリカの国会の例を示したりしながら、「与野党で将来を見据えた議論をしていただけたらと思う」と応じた。小泉氏は「画期的なやり取りだと思います」と満足げだった。

 なにやら、テンポよく質疑は進み、そして、話題は「統計不正問題」に進んだ。小泉氏は「この問題について今すぐ取り組まなければいけないし、今すぐ答えを出さなければいけないと思っていることは、実害が発生している約2000万人の方に、いつ追加給付がどのようにできるかということを明らかにすること」と力を込めた。

 これに根本大臣は「本日、今委員の御指摘がありました給付の書類ごとに現時点でのスケジュールの見通しを示す行程表を公表いたします」と応じた。すると、小泉氏は「それでは、一つ一つその工程表という中身を、確認をしてテレビを見ている約2000万人の対象の方々に、少しでも安心をしていただきたいと思ってます」と語り、雇用保険を受けている人は来年3月から6月の間に追加給付を受けることなどを質した。これに、根本大臣は「委員、御指摘のとおりであります」と神妙に答えた。

 この後も、小泉氏が説明して、根本大臣に確認する、というどっちが大臣だかわからないやり取りが続いた。しまいには小泉氏が「大臣が御答弁されたことを少し整理をすると、、、」と話し出し、滔々と「説明」し、根本大臣は「その通りです」などと繰り返した。これには、野党も「突っ込みどころ」もなく、これもいやに「順調」に質疑が進んだ。

 しかし、話題が「真相究明」に移り、何やら雲行きがおかしくなってきた。 小泉氏は「まだ見えていないなと思うことは、なぜこの問題が発生したのかというこの問題の根っこの部分と、そして、やはり厚労省ほんとに大丈夫かという、厚労省の未来については、私はまだ全然見えてないと思います」と語った。

 そして、厚労省が「第三者委員会」と銘打った「特別監察委員会」の調査について、「客観性。そういったことについては、大きく疑われてしまったのも無理がないと思いますし、やはりこの点については大臣、少し厚労省の中でやる調査にもかかわらず、第三者性ということを強調し過ぎた点は、率直に反省をした上で、いかに理解が得られるかということを考えられた方がよろしいんじゃないでしょうか」などと水を向けたのだ。

 これには、野党席から「何言ってんだよっ」と声が上がった。それでも、根本大臣はこれまでの答弁のまま、小泉氏に身を委ね、「現在の特別監察委員会については、委員のように第三者性を強調し過ぎでしたのではないかということについては、私も反省をしております」などと応じて見せた。

 これには、野党席から「えーっ」、「なんなんだよ」、とヤジが相次ぎ、思わず野田委員長が「ご静粛に」とたしなめたりした。

 そして、小泉氏は 「毎月勤労統計調査については、もう危機管理上でアウトだと思います。そして、ガバナンスという面においても、それは欠如してると思います。そしてこの賃金構造基本統計については、組織の隠ぺい体質のあらわれ」などと声を張り上げた。

 ただ、その後は「調べてみたら15年間で厚生労働大臣は13人です。そして、13人いて自民党の大臣が8人。民主党の大臣が4人。公明党の大臣が1人。このように、大臣どころか政権が代わったって、不正は見抜けなかったんですよ」などと語るので、またもや野党席からは「何言ってんだっ」「失礼だっ」などと大声が上がった。

 その中、小泉氏は「そのことを考えたら、私はこの問題は大臣を代えたら、この問題は起きないかというと、私はそういう問題ではなくてまさにこの問題であらわになったことは、、、」等と続け、野党席から「わかってるよ!」などとヤジがさらに大きくなり、野田委員長はまたもや「ご静粛に」とたしなめた。

 で、小泉氏は「私は、大臣は厚労省改革にしっかり旗を振っていただいて、あのときから厚労省が国民生活に責任を持っている組織として信頼されたと思うように、厚労省改革を取り組んでいただきたいと思うんですが、根本大臣いかがですか」と、6年前に安倍総理に促したのと同じように「決断」を促した。 根本大臣は、「厚生労働省改革が必要だと思っています」と応じて、45分間の「質問」を終えた。

 小泉氏は部屋を出ると、いきなりたくさんの記者に囲まれた。

 質疑の感想を聞かれた小泉氏は、まず国会改革に触れ「いやー画期的だったんじゃないですかね。期待持てますね。国民の皆さんもこの委員会の質疑を通じて、確かにそうだなと思っていただいて、国民の声が国会を変えるという声を形にできるよう、一つの契機になってほしい」と力を込めた。 そして、「不正統計問題」について「今日、最大の成果は工程表が明確になったこと。これからやることが明らかになったので、見ている人にはスケジュール感は安心になったのではないか」と満足げに振り返った。

 「今回の質問で大きかったのは、厚労大臣自らが厚労省改革が必要だと言ったこと。これを受けて、政治は動かざるを得なくなったと思う」とも語り、国会の廊下で若い政治記者に囲まれての「熱弁」は20分以上も続いていた。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞