NEWSの深層

TBS NEWS

2019年1月30日

「晴れ着とそば店と演説」の裏側 ~150日の1日目

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 「NHKなにやってんだよなあ。もっと、大事なニュースねえのかよってんだよなあ」「おれたちゃ『嵐』って言ってもポッカーンだよ」「相撲の中のニュースでもやってたろ」――。国会の2階の自民党の広い控室に入ると、古参のカメラマンが準備をしながら、前の日の夕方から人気アイドルグループの「嵐」の突然の休止についてNHKが盛んにニュースで扱っていることを「憤慨」していた。今日から150日間の通常国会が始まり、間もなく両院議員総会が始まるのだ。

 そこへ、振袖の女性議員が入ってきて、「女子はいつも固まるんだよねえ。だれもいないと座りにくいわあ」などと秘書に語り、部屋はいきなり華やいだ。和装議連に所属する議員は通常国会の召集日に着物で登庁するのだ。羽織姿の男性議員は「先生それ自前でしょ。いいですねえ」などと冷やかされ、「そんなことないですよ」と照れて見せた。そこへ、稲田元防衛大臣は薄い水色の着物、片山さつき地方創生大臣はあでやかなオレンジの着物でさっそうと登場した。なにやら拍手が起きるので何かと思うと、山東昭子元参院副議長が白の着物姿で登場し、なにやら凄みがあるのだ。

 定刻の11時半になると拍手で迎えられ安倍総理が登場した。そして、あいさつに立った安倍総理が「4日の日に伊勢神宮にお参りした際、行きの新幹線の中、富士山がくっきりと見えました」と話すと、「おー」と声があがった。そして「あー、今年はいいことがあるかなぁ。こんな思いがあったんですが、その次の日から地元に帰りましたら、雨が上がって、くっきりとこの虹がかかりまして」と、ここでまた「おーっ」。続けて「その虹の下にですね、虹が完全にでている。その虹の下を2匹の鹿がパカパカ」と、でまたもや「おーっ」と声があがった。そして、「こんな景色はなかなか見られない。この話を地元の人にしたら、『最近シカが多くて困ってる』と」と、「オチ」をつけて、「あ、はっ、はー」と部屋の中は笑いに包まれた(この話は、7日の自民党本部の「仕事始め」でも同じのをしていたのだが…。参照、ニュースの深層『笑えない2人』)。

 気を良くした様子の安倍総理は「そうしたら一昨日、大坂なおみ選手が全豪オープンで優勝しました。若い力の台頭は、私たちに夢や希望や勇気を与えていただきました」と付け加え、今度は拍手に包まれた。そして、「この国会でしっかりと責任を果たし、その後の統一地方選挙、参議院選挙を勝ちぬいていきましょう。その責任は私たち自由民主党にあり、そしてそれができるのは私たち自由民主党ですっ。皆さん一緒に頑張ってまいりましょう。よろしくお願いします」。と声を張り上げ、部屋の中は拍手につつまれた。

 続いて、二階幹事長があいさつに立つと、厳しい選挙だった山梨知事選挙で勝利した直後とあって、盛んな拍手が沸いた。二階氏は「山梨選挙は厳しいとか言われたが、関係者の努力の結果と、しみじみ思います」と礼を言った。そして、「しかし、けっしてこのことに気を緩めてはなりません。自民が調子よく、一遍こつんと(こづくしぐさをして)そういう『ご親切な』方がいないとは限りませんっ」と、笑いをとりながら引き締めたりした。

 両院総会後も、本会議まで時間があるとあって安倍総理の周りには着物姿や若手議員が取り囲んで写真をとり、盛んにフラッシュが瞬いた。

 この後、議席指定の本会議と開会式とがあり、安倍総理の施政方針演説はその後になる。この間、お昼ご飯をこなすことになるのだ。こういう時は、渡り廊下の下のそば店が便利だ。最近できた吉野家の奥にある、何十年前から変わらないカウンターだけのそば店なのだ。

 こんな、時は満席で、空いたとこに順番に座っていくことになる。空いた席は、左隣が、こないだまで旧竹下派の流れをくむ派閥の領袖をつとめていた額賀元防衛庁長官で、右隣が若い議員、その向こうが今は野党の元総理だった。額賀氏はすでに何か食べていたが、私のところに冷やし野菜そば(冷やしそばの上に野菜炒めがのってる、この店の名物)がくると、なにやら興味深げにジロジロ見ているのを左に感じた。そんなところに、旧民主党の細野豪志議員が通りかかると、「元総理」が「今、どこ?」と話しかけ、無所属ながら自民党二階派に入ろうと準備をしている最中の細野氏は、気まずそうに「一人です」とこたえ、すると「元総理」は「あ、そう。いろいろあるから、俺のキャパじゃわからないよ」などと、皮肉だかなんだか話しかけていた。細野氏が去った後も「なぜ立憲はこだわるのか。議員が相談もできない中、1100万人の投票で奇跡的にできた党なんだよ。そこを忘れたら一瞬のうちに終わる」「しかし、かわいそうだよな、小池さんとなると流れがつながんないわけよ」「原発はもう無理なんだよ。わかってんだよ経団連だって、経産だってだんだんと。だから、連合をだめにしたのはどこだかわかるか、電力総連だよ」などと話し続け、「こんなとこで、こんな話ごめん」などと言ったりしていた。

 本会議場に向かうと、なにやらカメラの脚立を担いだ人らの一団が議事堂正面の方に向かうところだった。何だろうと、行くと、さっきの両院議員総会にいた着物姿の議員らが集まっていた。和装議連の記念撮影なのだ。昼の晴れやかな日差しの下で、着物がなんともあでやかだった。真ん中は、野田聖子衆院予算委員長で、「参議院の先生方、来てますかー」などと、明るく仕切っていた。

 全体の写真撮影が終わると、「自民党の女性の先生お集まりくださーい」と声がかかった。自民党女性議員限定の撮影なのだが、三原じゅん子議員の前髪の「ウエーブ」がなんとも見事だった。カメラマンは「こっち見てくださーい」「こっちお願いしまーす」となんともにぎやかだった。

 そして、本会議場で安倍総理の施政方針演説が始まった。

 壇上で、安倍総理は「この6年間、3本の矢を放ち、経済は10%以上成長しました。国地方合わせた税収は28兆円増加し、来年度予算における国の税収は過去最高62兆円を超えています」と胸を張った。そして、「成長と分配の好循環によってアベノミクスは今なお進化を続けています」と声を張り上げると、すかさず野党席からは「おいおいっ」などとさっそくヤジがとんだ。原稿を見つめる安倍総理は「世界で最も早いスピードで少子高齢化が進む我が国にあって、もはや、これまでの政策の延長線上では対応できない。次元の異なる政策が必要です」と力を込め、これには、「辞めてください、じゃあ」などと声があがった。

 演説では「全世代型社会保障への転換」と題した、内政のくだりが延々と続いた。そして、「女性の視点が加わることにより、女性たちが活躍することにより、日本の景色は一変する。人口が減少する日本にあって、次なる成長のエンジンです」と声を張り上げ、「機械に例えるなあ」とヤジがあがったりした。そして、だしぬけに「勤労統計について、長年にわたり、不適切な調査が行われてきたことはセーフティネットへの信頼を損なうものであり、国民の皆様にお詫び申し上げます。雇用保険、労災保険などの過少給付について、できるだけ簡便な手続きで不足分をお支払いいたします」と、焦点の「不正統計問題」について話し始め、野党席からは「ごまかすなあ」などと激しくヤジが沸き上がった。安倍総理はすました顔で「基幹統計について緊急に点検を行いましたが、引き続き、再発防止に全力を尽くすとともに、統計の信頼回復に向け、徹底した検証を行ってまいります」と原稿を読み上げた。その後は、「成長戦略」の話が続いた。ヤジで沸き立つ本会議場の記者席で演説を聞きながら「あれだけあおった北方領土や悲願の憲法改正はどうなっているのかしらん」と、演説原稿をめくっていくと、後ろの方に、北方領土問題は「首脳間の深い信頼関係の上に1956年宣言を基礎として交渉を加速してまいります」などと4行、憲法改正問題は「国会の憲法審査会の場において、各党の議論が深められることを期待いたします」などとわずか3行だった。「誰かが、安倍総理はサラダボウルから玉を取り出すように目先の目玉政策が変わると言ってたなあ」と思ったりした。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞