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TBS NEWS

2019年1月29日

「立ち尽くす根本厚生労働大臣」の裏側 ~突入「波乱の通常国会」

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 参議院の別館の最上階、4階の委員会室に急いだ。これから、「不適正な統計問題」をめぐり、週明け1月28日の通常国会の開幕を前に、厚生労働委員会の閉会中審査が始まるのだ。

 中に入ると、広い委員会室いっぱいに委員の席がコの字型に広がり、机の上には根本厚生労働大臣が委員会の冒頭で発言する謝罪の文書が置かれていた。午後1時からの開会を待つのだが、議員は誰も入ってこず、部屋のわきに陣取ったカメラマンの動きも、なにやらアンニュイな感じだった。すると、知り合いの記者が寄ってきて、「午前中の衆議院の委員会でもそうでしたけど、理事会が長引くんですよ、たぶん2時くらいにならないと始まりませんよ」と教えてくれた。

 ならばと、委員会室のわきにある、こちらは狭い小部屋の理事会室に足を運んだ。激しく対立する理事らも、理事会が始まるまでは和やかだ。

 「先生なんだか鼻声ですねえ」という声がするかと思うと、立憲民主党の理事が「うちの枝野代表のインフルエンザは、今日熱がさがっているかが判断基準なんですよお」などと、数日前にインフルエンザにかかったとニュースになっていた枝野代表の話題で軽口をたたいたりした。そんな理事たちも、委員長が「これから頭どりを始めます」というと、途端に厳しい「与野党」の表情に戻った。

 委員長が「頭どり終了します」というと、カメラは部屋を出て行ったのだが、そのまま理事らが沈黙をするなか、血相を変えた厚労省の役人が飛び込んできた。委員長が「理事会に遅れないように」とたしなめると、官房の担当は「申し訳けありませんでしたっ」と直立不動で謝罪した。そして、扉を開けたまま理事会が始まった。この委員会ではオープンにするのが慣例なのだろうが、普通、他の委員会の理事会はクローズで行われるので、初めてその様子を見た。

 指名されたさっきの官房の担当が指名されて飛び上がるように立ち上がり、「先ほどは申し訳けありませんでしたあ」と改めて頭を下げてから、「毎月勤労統計調査」に対するこれまでの理事からの質問について、ひとつひとつ、「この件につきましては監察委員会の報告書の該当項目にあります」などと、厚労省の「第三者機関」として、「適切な調査」を調べた「特別監察委員会」の報告書などを引き、長々と説明した。ただ、説明が終わるや否や、立憲民主党の石橋理事は「聞いた期間の調査対象事業所がどれだけあるのかわからないと議論できません」と言い切り、緊張が走った。それでもお構いなしに石橋氏は、「抽出データを修正したプログラミングの仕様書がないなんて信じられないっ。決定文書がないとプログラミングできませんっ。ないとなると、信じられませんっ」と語気を強め、狭い部屋に響いた。改めて、説明を求められて立ち上がった厚労省の担当は、「4番目については報告書の13ページに記載させていただいています」などと言うと、すかさず石橋氏は「報告書を見てくださいというのは話が違う。我々は立法府ですから。監察委員会の報告でいいなら我々はいらない。はなはだ、失礼ですっ」と言い放つと、役人は悲しそうな表情になっていた。そんなやり取りが続きやっと今日の委員会が開かれることが決まった。

 そして。委員長は「では、本日の委員会ですが」と、これから始まる委員会の在り方について話し合いを始めた。そして、いきなりまたもめ始めた。立憲民主党が、今回報告書をまとめた「第三者委員会」の特別監察委員会の委員長を参考人で呼ぶよう求めているのに対し、自民党の理事は「十分わかります。ただ、今回はこういう形で、いろいろ最後までしっかりやらなければならないと。これで。終わるとはありゃせんですから、今回は政府から答弁いただくということで」と、いなしだした。これに、野党の理事からは「こんなことしてたらまた隠ぺいしていると言われますよっ」と、声を上げる。「今から呼べばいい」などとの声も上がった。あれこれやり取りした果てに、自民党の理事は「まずは、今日の質問をしていただいて。そして、呼ぶべしとなったらということで」と、「いんぎん」にとりまとめた。

 で、やっと委員会が始まるのかと思ったら、こんどは与党理事から、「この資料には出典がないですが」などと、野党が質疑で使おうとした「フリップ」について注文を付けた。これに、野党理事は「東京都に聞いてもらえばわかります。ただ、いろいろ話を聞いた先が、そのまま表に出るのは…」。これに、与党理事は「しかし取り決めがあるわけですから」などと、出典が書いてないと委員会で使うのはまかりならんと「きっぱり」拒否をした。これにも、押し問答がしばらくつづいて、委員長が「これは、今回だけの例外ということで」と水を向けてやっと収まった。この時1時35分。

 ならば、委員会は1時45分から始めればいいようなものだが、なにやら厚労省の担当が出たり入ったりが続いた。委員長が何やら聞くと、「今、クルマの中で待機していますので、すぐ対応は可能です」などと言ったりしていた。それでも、理事らは壁の時計をみて何やら思案気だった。そして、厚労省の担当が走り回り、そのなか、委員長は「それでは確認します。再開は午後二時」と宣言し、理事会は終わった。開始からほぼ1時間後の午後1時40分だった。初めてだっただけに、いつも取材している委員会の裏側のやり取りを目にして「民主主義っちゅうのは手間がかかるもんだなあ」と思ったりした。

 委員会では、冒頭、根本厚生労働大臣が立ち上がり「国民の皆様にご迷惑をおかげしたことを深くお詫びします」と言って、深々と頭を下げた。これに、立憲民主党の石橋氏が質問に立ち「まさかと思いながら、またかの思いだ。去年の問題にはじまって、厚労省の信頼が地に落ちたと思ったら、まだ底ではなかった。もっと底に沈んでしまった」などと語った。そして、「追加給付すればいいってもんではありません。国民の生活踏みにじった。大臣その思いはあるんですかあ」と声を張り上げた。これに、根本大臣はこれから始まる統計のややこしい質問に備えて、一生懸命、資料を見続けていて、それに気づいた石橋氏は「大臣、こちら見てください。なんで、答弁書ばかり見ているんですかあっ」と大声を出し、根本大臣はびっくりして、目を丸くして石橋氏を見つめ直したりした。

 そして、石橋氏は特別監察委員会の厚労省職員への調査について「ヒアリングしたのは何人だったんですか」と質し、根本大臣は「監察委員会のヒアリングは31名であります」などと答えた。これに、石橋氏が「いや、監察委員が直接ヒアリングしたのは何人ですか」とたたみかけると、根本大臣は困惑の表情で後ろに控える厚労省の役人の方を振り返り、あわてて数人が歩み寄った。これに、委員長は「速記を止めてください」と声をあげ、審議はいきなり中断した。しばらくの「相談」のあと、根本大臣は「メンバーが具体的に何人にヒアリングしたかということは精査中であります」と答え、委員会室には「なにーっ」とのヤジがあがった。石橋氏はこれに「厚労省の内部のヒアリングが含まれている。これで、国民の誰が信じるんですかあ」と声を荒げ、根本大臣が「じゃあ、改めて答弁します」などと話し出すものだから、殺気立った委員会室に「じゃあ?」とヤジが飛んだ。

 困惑の表情の根本大臣は「委員の指示を受けて事務方がヒアリングして、委員と共有して…そこはあれ…」とだんだん言葉に詰まりだし、すかさず野党から「あれ?あれ?」と声があがった。根本大臣は「ヒアリングの結果を委員が受けている」と釈明するも「直接はいないんですかあ」と監察委員会の委員が直接ヒアリングした職員の数をただされると、根本大臣は黙ってしまった。「じゃあゼロかよ」「第三者委員会じゃないじゃない」などとヤジで騒然となる中、厚労省の役人数人があわてて根本大臣のところに走り寄り、委員長が「速記を止めてください」と、改めて審議が中断した。

 騒然とする、委員会室を後にしながら「国会の予算委員会が始まったら大変だわこりゃ」と思った。廊下に出ると、あの「野党合同ヒアリング」で質問攻めにあっていた参事官が廊下に立って、心配そうに審議の成り行きを聞いていた。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞