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TBS NEWS

2019年1月22日

「凍り付く厚労省参事官」の裏 ~突入「波乱の通常国会」

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 国会に急ぐと、いつもは立憲民主党の代議士会が開かれる部屋で、ちょうど野党4党の「勤労統計問題野党合同ヒアリング」の準備が進んでいるところだった。向かい合う形でテーブルが並び、官僚席のほうはすでに20人ほどが席についていた。ただ、総務省や財務省などの幹部や担当者はいるものの、肝心の厚労省は空席だった。

 それにしても、1月12日の新聞の一面の記事には驚かされた。「統計不正過少給付567億円 保険1973万人分支払いへ」との見出しだった。わかりにくい、話で何回か読み直したのだが、要は雇用保険や労災保険の給付水準のもとになる「毎月勤労統計」なるものが、東京都の従業員500人以上の大規模な1400事業所について、全部調査しないといけないところを、約500事業所を勝手に抽出して調査をしていたのだというのだ。比較的賃金の高い大規模事業所の調査数が減ったために、正しく全事業所を調べた場合より低い賃金の結果が出ていたのだというのだ。記事には「この統計が法律で『基幹統計』と位置付けられ、国内総生産(GDP)や景気動向指数など多くの経済指標の算出にも使われる」とあり、事態の深刻さをうかがわせた。

 しかも、「昨年1月分からは、本来の調査対象数に近づけるよう補正するシステムの変更を、公表しないまま行っていた」というのだ。「低かった」のを戻せば、当然「高く」なるわけで、そのデータが使われてきたというのだ。「なぜ…」。そして、通常国会を控えて、野党合同のヒアリングがこれから始まるというわけだ。

 ヒアリングの部屋の席にいない厚生労働省の参事官は「どこに、いるのかしらん」と探してみると、入り口の廊下で神妙な顔つきで国会議員の「お迎え」に立っていた。

 議員の方も20人ほどが座り、司会役の国民民主党の山井議員が「定刻なので始めさせていただきます」と話しだすと、いきなり「悪いことが続いていたということですよねっ。組織的隠ぺいであり、人災ではないか」と語気を強め、冒頭から官僚席の方はみな神妙な表情(とりわけ厚労省幹部は眉間にしわを寄せ悲壮感を漂わせていたのだが)で凍り付いた。

 次いで、立憲民主党の長妻代表代行は、マイクを握りしめ「去年1月、政府が新たにデータ加工して、ルール違反を公表しなったことが事実だとすれば大きな問題になる。結果として、実態と異なる形でとして、賃金が前年同月比で大幅に上がった」と居並ぶ官僚をにらんだ。そして「昨年1月ごろは国会が裁量労働制のデータ偽造問題で紛糾していて、そのタイミングで新たな統計問題を公表するのが得策でないというような判断が働いたとしたら、これまた大きな問題だ」と、こちらも出だしから「戦闘モード」だった。

 これに、前列中央に座っていた厚労省の参事官らは、そろって立ち上がり「今般このような事態となり、申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げ、部屋の中は「悲痛」な空気が流れた。

 そして、参事官は着席し、事前に渡されていた21項目の質問に一つ一つ答え始め「『なぜ去年1月に復元を行ったか。その事実を公表しなったのはなぜか』。その調査をしているところでございます」と言うと、議員からは「期限きって」とすかさず声が飛び、参事官は苦悩の表情で「できるだけ速やかにと思っております」などと答えた。そして、「3番目、 『安倍総理、加藤大臣は復元をいつ知ったのか』。今、調査中でございます」…などと、何回も「調査中」が続き、いらだった議員からは「もごもご言わないで聞こえない」とヤジが飛んだりした。

 番号を読みあげながらの「番町皿屋敷」を彷彿される21項目にわたる質問への参事官の説明は、ほとんどが「調査中」だった。この中「実質賃金の伸び」について、去年の「復元」の結果、「実態」より高く出ていて、「正しく」すれば「伸び幅」が下がると説明したことで、議員の追及に火が付いた。

 興奮した国民民主党の原口国会対策委員長は「アベノミクスの成果で実質賃金は上がったと、民主党政権よりよっぽどいいと豪語していたじゃないですかあ。もしかしたら実質賃金はマイナスだった可能性だってあるっ」とマイクを握りしめ、参事官は老眼鏡をずりおろしたまま、原口氏の顔を見つめた。

 また、山井氏は「1000の大企業を復元したら、賃金は上がることは担当者はわかっていたでしょ。いやあ、これねえ、これありえますか。実体経済はよくなっていないけど、そういう操作をしたら実質賃金あがって、安倍総理も喜ぶとわかってながらやったということは、国民どころか世界をだましたということになりかねないっ」と声を張り上げた。

 連日、この「不正統計問題」の報道が続く中、菅官房長官は、厳しい表情で「国会トークフロントライン」のスタジオで、この問題を語った。

■菅義偉官房長官「国民のみなさんに申し訳ない」(1月18日放送)

変遷

 「総務大臣が統計を所管する。ただ、各省庁でやってるんですね統計、それぞれ持ってますから、2、3年前、しっかり見直しをしたほうがいいと、そういう形で、方向も、今も政府ですから1つにしたほうがいいとの見直しして強化していたところだったのですが、今回は、このような実際はすべて、全調査するというのを、3割しかしていなかったという、大変申し訳ない。これが発覚いたし、国民の皆さんには政府として申し訳ないと思っています。で、他の機関統計もこういうことがあったら大変ですから、事務次官会議で、すぐ調査するように指示した。今、徹底して指示して、2度と再びこうしたことがないよう徹底したい。本当に申し訳なく思っています」

 思ってみれば、部屋には、これまでいがみ合っていた立憲民主党と国民民主党の議員が並んで、そして共産党の議員も加わって、1時間半近く、延々と「激しい」質問を続けていた。そんな様子を眺めながら、2007年の、ずさんな年金記録が判明したあの「消えた年金問題」がまざまざとよみがえった。国会で野党から激しい追及を受けた自民党は、その年の参院選で惨敗し、それが第一次安倍政権の退陣につながったのだっけ。延々と続く「ヒアリング」を眺めながら、「通常国会は荒れそうだなあ」と思ったりした。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞