2018年12月19日
[ TBS政治部記者 後藤俊広 ]
Q.日ロ交渉 ラブロフ外相が第二次大戦の結果を日本が認めることが第一歩と?
河野外相「次の質問どうぞ」
Q.ロシア側からは原則的な立場の表明がある。それに対する反応もないと?
河野外相「次の質問どうぞ」
Q.ロシア側から発言あり、アンバランスさは協議に影響あるのでは?
河野外相「次の質問どうぞ」
Q.なぜ次の質問どうぞと言うんですか?
河野外相「次の質問どうぞ」(12月11日 記者会見)
多くの方がこのやりとりをご覧になったことと思います。
日ロの平和条約協議に関してロシアのラブロフ外相が「第二次世界大戦の結果を日本が認めることが絶対的な第一歩」などと発言しました。
これに関する記者の質問に対する河野太郎外務大臣の答えです。「説明責任を果たしていない」と強く批判を受けています。
普通の大人の対応としても首をかしげざるを得ませんが、政治家の対応という意味では“2つの点”で疑問を持ちます。
1つ目は記者会見に対する認識です。政治家の会見への取り組み方は、その人物の政治理念や力量を測る上での“尺度”になります。
いまから25年前、当時の政権与党の幹部が「記者会見はサービス」という趣旨の発言をして反発を買いました。本音を思わず吐露したのでしょう。
しかし会見は単なる記者とのやりとりではありません。記者はあくまで“媒介”に過ぎず、そのやりとりは一般の人たちに伝えられるものです。
河野氏の対応をみると、国民を意識した発信とは感じられません。
さらにもう1点、これは河野氏に限った話ではありませんが、政府関係者の多くは、日ロの協議については「交渉上の支障を来す」等を理由に極端に情報を開示しようとしません。
確かに外国との交渉は「相手に手の内をさらす」ことを避けるべく水面下で秘密裏に進めるのが、常套手段とされてきました。50年前に行われたアメリカとの沖縄返還交渉では、水面下で総理の“密使”が重要な役割を果たしたほか、“密約”も交わされていたことが関係者の証言などで、ようやく最近になって明らかになってきています。
「民は由(よ)らしむべし、知らしむべからず」という論語の言葉があります。これは「為政者が定めた法律によって人民を従わせることはできるが、その法律の道理を理解させるのは難しい」という意味で、封建時代からのかつての政治の有り様を示す故事といわれています。
現代の日本政治でも外交に関しては、こうした考えの“残滓”を引きずっているのではないかと感じます。
しかし、日ロ協議は領土の帰属や主権が関わる大きな問題です。国民的なコンセンサス、または後押しがなければ進展は期待できません。
河野大臣は自身のブログで、記者会見の対応について謝罪しました。この中で、日ロ協議についてコメントしない理由をこう述べています。
「交渉の責任者である私がそれ以上何か言えば、必ず、ロシア側でメディアがその発言を取り上げ、それについてのコメントをロシアの政治家に求めるでしょう。それがロシアの世論に影響を与えれば、交渉にも影響が及びます。だから、日本側の主張は交渉の場で申し上げ、それ以外の場では発言を差し控えようというのが、現在の政府の方針です」(河野大臣のブログより 12月15日)
交渉への悪影響を懸念していると河野氏は説明しますが、交渉の基本方針について国民に明確に説明しない、その姿勢は受け入れがたいものがあります。
交渉の途上でも伝えられる情報、あるいは伝えなければいけない情報は必ずあります。
これだけ情報リテラシーが進む中で何十年後に「実はあの交渉ではこんな話があった」と外務省が公開するような時代ではありません。
ブログで反省の弁を述べた河野大臣。次の会見でどう説明するのか。じっくりウォッチしたいと思います。
後藤俊広(TBS政治部記者)
政治部官邸キャップ。小泉純一郎政権から政治取材に携わる。
プロ野球中日ドラゴンズのファン。健康管理の目的から、月100キロを課すジョギングが日課。