NEWSの深層

TBS NEWS

2018年12月14日

「山尾志桜里vs平沢勝栄」~入管難民法改正案、衆議院法務委員会採決の裏側

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 昼下がりの法務委員会室に着くと、ちょうど委員らが部屋に入っていくところだった。これから始まる入管難民法改正案の法務委員会での「採決」に向けて、テレビカメラが並び、衆議院の衛視もたくさん集まっていた。

 中に入ると、委員の席を囲んで壁際に野党議員が大勢で集まり、騒然としていた。

 そして、「法務大臣がいないぞ。与党議員がいないぞ。だめだよ、こんなの」と、間もなく始まるであろう「採決」を控えて野党議員は声を張り上げた。

 そして、「与党議員席、空きがあるじゃないか。副大臣もいないぞ。だめだよこんなの」と声が上がると、たまらず与党議員席のほうから「大きな声だすなよ」と、たしなめる大声があがり、委員長席の葉梨委員長は、これから始まる「混乱」を予想させる様子にうんざりした表情で「今、向かっていますから」とたしなめた。

 しばらくして、ほどなく山下法務大臣と副大臣らが着席し、与党席も埋まったのだが、正面で自民党の平沢筆頭理事が立憲民主党の山尾理事を呼び寄せ、正面でなにやら話だした。

 みんなが、怪訝そうに見つめる中、平沢氏が「参院終わるのなん時かなあ」と自民党の理事に話しかけて、困惑の表情を見せると、山尾氏は「政務官がいないとだめですっ」と声を張り上げた。

 見ると、政務官がまだ来ていないのだ。そのことに気づいた、野党議員からは「散会だー」「散会だー」と大声を上げ始め、平沢氏は「なんでこんなに人がいるんだっ」と声を荒げた。

 ヤジで騒然となる中、葉梨委員長は「室内の整理権があります。室内においては静粛に」と声を張り上げ、「政務官は参議院の農水委員会に出席しています。協議してください」と与野党の協議を促した。

 これには、野党議員から「協議にならないでしょ。まともな運営やれよっ」「筆頭理事なら事前に日程把握しとけ」などと声が上がり、またもや委員会室は騒然とした。その中、野党理事と平沢氏との話し合いが正面で始まった。

 山尾氏は「なんで事前に私に知らせなかったんですかっ」と一喝。平沢氏は「私、知らなかった…」と悲しそうな顔をしたりした。

 委員会室には「理事会やれよっ」「理事会っ」とヤジが上がり、葉梨委員長は「今、しばらくお待ちください。遅刻したわけではなく、参院の委員会に呼ばれているわけですから」と諭すと、山尾氏は「委員長はご存じだったんですか」と質し、葉梨委員長は「私も聞いていません」と打ち明けた。

 これには、野党席から「ひどいよー。そっちからやりたいと言った話でしょ」「だめだよ、そんなのー」と大声があがり、平沢氏は「今、向かってんだからいいじゃない」と、だんだん「懇願調」になっていった。

 委員会室には「流会っ、流会っ」とヤジが連呼する中、葉梨委員長に連絡が入り「今、出発しました」と声をあげたものの、「だからいいってもんじゃないよ」との政府・与党の「まさか」の不手際を非難する声にかき消された。そして、山尾氏は「野党の質疑の時間を大切にしてほしいんですよ」と、17時間余りの「短時間」で採決に踏み切ろうとの事態を責めると、「そうだっ」と声があがった。

 山尾氏が「だからこういうやり方ダメだって言ってるんじゃないですか。詰め込みやめましょうと」というと、またもや「そうだー」「退席だー」と声が上がり、「条件整えなかったの皆さんですからねっ」などと言い残し、野党議員らは退席した。

 そして、平沢氏が委員長席と理事会室を行ったり、来たりして、40分ほど経って、政務官が5回にもわたり陳謝して、改めて質疑が始まった。そして、最後の維新の会の質問時間が終わりに近づくと、職員が残り時間を書いたメモをもって各党の理事を回り、緊迫のボルテージが最高潮に達した。カメラマンはその時を逃すまいと一斉に葉梨委員長に向けてカメラを構えた。

 そして、突然、葉梨委員長が「質疑を終局する採決を求めますっ」と声を張り上げると、野党議員が一気に駆け寄ってマイクにしがみついた。その中、葉梨委員長は奪われまいと固くマイクを握って「賛成の諸君の起立を求めますっ」と大声を出した。

そして、「だめだよ」「だめだあ」などと罵声が飛びかうなか与党議員が一斉にガタガタと立ち上がった。

 「採決」と「起立」で、これで終わったのかのようで、喧噪の中、「採決」はまだ続いた。

 マイクの取り合いが続く中、葉梨委員長は「…討論…」などと叫び、一方を指さした。すると、維新の会の議員が立ち上がり「中小企業の人手不足は深刻で」などと、賛成討論を始め、「やめろーやめろー」などとの罵声が飛び交い騒然となった。

 そして、マイクを握りしめた葉梨委員長は「採決します」と大声を上げ、「修正案賛成の諸君の起立を求めます」と声を上げた。

 そして、喧噪の中、与党議員が一斉に起立した。葉梨委員長は「起立多数。よってそのように決します」と声を張り上げ、続いて、「修正部分を除く原案に賛成の諸君の起立を求めます」となおも大声を張り上げ、与党議員が起立した。

 それでも、「採決」は終わらず、喧噪の中、葉梨委員長はなおもマイクを握りしめ「付帯決議が提出されていますっ。趣旨説明を求めますっ」と叫んだ。

 これを受け公明党の議員がメモを読み始めて趣旨説明したのだが、「1」「2」などと「10」まで項目が続き、長いものだから「意味ないよー」「やめろー」との罵声もかすれがちで、これに葉梨委員長も「静粛にお願いしますっ」と必死の形相で対抗した。

 そして、囲んだ野党議員は「議事進行」を見ることができないよう、手で目隠ししたりもするのだが、ここまで繰り返せばもう覚えているようで「賛成の諸君の起立を求めます」と声を張り上げ、与党議員が立ち上がった。

 「起立多数。よってそのように決しました」と、葉梨委員長が声を張り上げ、これで終わったかと思ったら、まだ葉梨委員長は「委員会報告の作成を委員長に一任していただきたいと…賛成の諸君の…」と続けた。

 これに、与党議員が一斉に立ち上がり、拍手が沸き起こり、やっと終わった。午後5時45分。ここまで、「起立採決」は5回。法務委員会での17時間15分の法案審議が終わった瞬間だった。「やれやれ」と思った。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞