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TBS NEWS

2018年12月6日

「山尾志桜里議員の激怒」 ~衆議院予算委員会集中審議の裏側

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 朝、9時から始まる衆議院予算委員会に備えて、少し早かったのだが、朝8時30分に部屋に入り記者席の最前列に陣取った。衆議院法務委員会での採決と本会議採決での「入管難民法改正案」の衆議院通過を翌日に控え、急遽、それを前に予算委員会の集中審議がセットされ、これから行われるのだ。

 そして、ながめると、すでに戦国時代の瀬戸内海の海賊「村上海軍」の末裔である自民党の村上誠一郎氏が最後列に陣取っていた。「自民党最後の良識派」と自称する村上氏の妙な意気込みに驚いていると、私の姿に気づき部屋の真ん中に座ったまま「なんで今日来てるんだよ」などと毒づいた。「取材ですよ」といなすと、今度は「なんで終わっちゃったんだよ」などと、私が担当していて9月に終わった日曜朝の政治番組のことを聞いてくる。「なんでなんですかねー」などと言うと、今度は「スポンサー探せばいいなら探すぞ」と言う。大声に、むこうに腰かけていた財務省の太田主計局長(森友学園問題で理財局長時代にすっかり「有名」にたったあの人)や準備をしている衆議院の職員が怪訝そうな顔で見始めたので、「そういう話じゃないと思います」などと答えながら、たまらず頭上のカメラマン席に逃げた。

 うえから見ると一番乗りの村上氏が見えた。すると、若い自民党議員がやってきて、村上氏に「早いですねー」とあいさつすると、「早くないよ」だとか。その議員が、座席の後ろにある水入れからコップに水を入れ、まずは村上氏にと渡そうとすると「水いいよ。おれ、おなか壊すといけないから」とか。途中でいなくなることもある村上氏だが、「今日は最後まで見とどけるつもりだな」と思ったりした。

 しばらくすると大臣も入り始めた。前日に万博の大阪開催が決まったとあって、世耕経産大臣のもとには河野外務大臣が歩み寄り、「おめでとうございます」と大声で祝福した。そして、世耕氏は嬉しそうに何やら話だし、河野氏が何か言うと「そうそうそう」と相槌を打ったりしてしばらく話し込んでいた。

 そんなところに、今度は連日、「入管難民法改正案」の答弁に追われている山下法務大臣がつかれた表情で登場、ペコリペコリとあちらこちらに頭を下げて着席した。すると、秘書官が2人がかりで次から次へと資料を手渡し始めた。

 そして、麻生財務大臣が登場すると、こちらも世耕大臣に歩み寄り、きっと大阪万博の話と思われる会話でニコニコしだした。今度の立ち話もしばらく続いた。

 姿を現した、安倍総理も、まずは世耕大臣に歩み寄り立ち話をしだしさかんにフラッシュがたかれた。カメラ席から見下ろし「安倍内閣にとって一大事の出来事だったのだろう」と思ったりした。

 そして、安倍総理は今度は山下法務大臣に歩み寄り、恐縮する山下氏を前になにやら手ぶりをまぜて熱心に「指導」を始めた。しばらく、話した後、安倍総理は一たんは自分の席についたのだが、なにか言い忘れたことに気づいたのだろう、改めて立ち上がり山下大臣に歩み寄って改めて「指導」を始めた。「そりゃあ、入管難民法は安倍内閣にとってさらに一大事だものな」などと思った。そして、内閣の中で安倍総理が細かいことまで指示を出していることに少し驚いたりもした。

 その後、安倍総理が自分の席に着くと、すかさず秘書官が歩み寄りなにやら説明を始めた。安倍総理は腕を組んで説明を聞き、時折、納得いかない様子で首を傾げたりした。説明は5分ほども続いた。そこへ、野田聖子委員長がやってきて席に着き、「よしっいこう」「がんばれよー」などと声があがり、階段を下りて記者席に着くと、前をあわただしく議員が席に着き、「質疑」が始まった。

 与党の「無難」な質問のあと、立憲民主党のグレーのジャケットに黒のズボン姿の山尾志桜里氏が質問に立つと、部屋の中は一転して緊迫した。山尾氏は「外国人労働者の永住権資格の判断」についてただしだした。

 そして、安倍総理が、本会議での山尾氏の質問に対し「法務大臣において判断されるもの」と答弁したとして、「法務大臣が決めるべき運用の問題ではなく、安倍政権の判断のもと、政策判断をしたうえで、国民に、立法府に問うべき政策だと思いますけど、そうではないんですかっ」と、迫り、「そうだっ」「しっかり答えろっ」などと声が上がった。この中、山下法務大臣が手を上げ、野田委員長が「山下法務大臣」と指名すると、限られた時間の中で質問している山尾氏の怒りが爆発した。

 「総理の認識ですからっ。法務大臣には答えられないことですっ。違うっ。違うっ。法務大臣には答えられないっ。法務大臣には答えられないっ」と大声を上げ、野党席からも「総理っ」「総理っ」とヤジが上がった。部屋の中が騒然とする中、答弁席で立往生する山下法務大臣を前に、野田委員長が「法務大臣の話が出ましたので」と諭しても、山尾氏は「要求しておりませんっ。総理の認識ですっ」と、立ち上がって座らない。そして、山下法務大臣が「入管法の構造にかかわる…私からお答えします」と答弁を始めようとしても、山尾氏は今度は野田委員長に向かって「采配がおかしいっ」とかみつきだし、野田委員長は「その後、総理が答えます」と改めてさとした。

 それでも、山尾氏は「総理にしか答えられない内容を聞いております」と叫ぶ中、山下法務大臣は「所管大臣であります私からお答え申し上げます」と答弁を始めた。「総理っ」「総理っ」とヤジが上がる一方、今度は山下大臣のメモを見ながらの答弁が長々と続き、野田委員長はうんざりした表情で「法務大臣、簡潔に」とたしなめた。そして、その後、答弁に立った安倍総理が「今、法務大臣から答弁させていただいたようにですね。まさに…」などと語りだし、改めてヤジで騒然となって、野田委員長は「ご静粛にお願いしますっ」と大声を上げた。

 これに安倍総理は、「よろしいでしょうか」とあたりを見回してから、話し出したのだが、こちらもメモを見ながらの、しかも「永住権が認められるには素行善良であること、独立の生計を営むに足りる資産または技能を有すること…」などと、「永住権を受ける条件」を話し出して、遮るように山尾氏は「先ほどの答弁と同じですっ。繰り返しの答弁で空洞化させるのはやめてください」と叫んだりした。

 そして、話題が今回の法案で拡大される外国人労働者の、いわゆる「単純労働」に移ると、安倍総理が「ご質問は、では単純労働はどうかということでございますが、それがどれかということを私は今、ここで答弁することはできないのでありますが、いずれにいたしましてもですね、これは需要と供給という関係で成り立つものでありますが、様々な形でですね、今…」と話し出したのだが、山尾氏は座ったまま、これを遮って「答弁できないならもうやめてくださいっ」と声を張り上げた。これに、安倍総理は「今ですね…」と続けたが、部屋の中は与野党双方からのヤジで騒然となり、野田委員長が「お静かにお願いします」と声を張り上げた。そして、安倍総理は「答弁している最中にですね…」と始めると、山尾氏は「だって答弁できないのに」とぶぜんとした表情を見せた。安倍総理は「やめてくださいというのはどうかと思うわけでございます。今、まさに、まさに答弁の途中でございます…」などと語るのだが、ヤジで声はかき消され、またもや野田委員長が「ご静粛に」と声を張り上げる始末だった。その中、安倍総理は「それはですね。今、さまざまな形でですね…」と答弁を続けていた。

 騒然とする部屋の中でのやり取りを眺めながら、「やれやれ」と思った。そして、「お昼ご飯に何を食べようかな」、などと考えたりした。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞