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TBS NEWS

2018年11月23日

「衆院葉梨法務委員長解任決議」の裏側~激突臨時国会

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 まだ、開会まで時間があるので、人気のない衆議院本会議場の記者席にすわると、知らないうちに、ため息がでた。

 つい1か月ほど前の所信表明演説だったのだ。壇上の安倍総理は、「外国人労働者受け入れ拡大問題」について触れ、「移民政策を転換するのか」などと盛んにヤジが飛び交う中、「半年前に来日したばかりの、ベトナムのクアン国家主席が先般お亡くなりになりました」と話しだしたっけ。

 そして、「来日の際、訪れた群馬の中小企業では、ベトナム人の青年が、日本人と同じ給料をもらいながら、一緒に働いていた。そのことをクアン主席は大変うれしそうに、私に語ってくださいました。『彼にとって大きな誇りとなっている』。これは私たちにとっても誇りであります」と胸をはっていたのだが。

 しかし、総理は胸を張るものの、すでに日本で働いている外国人の「技能実習生」の実態についてはその後の予算委員会で疑問の声が野党から上がり、直近の2017年の聞き取り調査の結果について明らかにするよう迫られることになったのだ。

 その中、山下法務大臣は「失踪した技能実習生」について、「より高い賃金を求めた失踪が約87%」などと、答弁をつづけた。しかし、いよいよ法務委員会での法案審議が始まるにあたって、法務省が理事らに説明したのは「低賃金」による失踪が「約67%」というもの。しかも、「指導が厳しい」が5.4%から12.6%に、「暴力を受けた」が3.0%から4.9%と、「誇り」とは程遠い状態だった。

 そして、法案審議を始めようとしていた政府・与党に反発を強めた立憲民主党が葉梨法務委員長の解任決議案を提出し、これから採決が始まろうというわけだ。なんのことはない、あの時もここから議場を眺めていたのだが、1週間前の本会議での法案の趣旨説明とその質疑からなにも進んでいないというわけなのだ。

 あの日は、本会議に先立つ立憲民主党の代議士会で、辻元国会対策委員長が怒っていたっけ。

 辻元氏は法務省に審議に入る前に提出するように求めていた、新しく制度を始めた場合の「外国人労働者の見込み数」がなおも出てこないことについて「山下法務大臣は『法案の審議に資するように出していきたい』と言っていた。今から審議がはじまるわけで、資すれないじゃないか」と大声を出し、「そうだっ」などと声があがった。すると、辻元氏は「資するっ、資すれないっ、資するときっ、資すればっ。ふざけんじゃねえっ」と、さらに声を張り上げ、拍手が起きていたっけ。

 ならばと、「失踪者データ」の訂正を踏まえた、法務委員長の解任決議の本会議を前に、今日はどんな様子かしらと、2階にある立憲民主党の控室に向かうと、自民党の四分の一ぐらいの手狭な控室で、すでに集まっている議員らの前で、「鬼」のような形相で正面を見つめていた。そして、指名を受けてマイクの前に立った。

 辻元氏は「実態解明なくして、入管法の改正なし。まずはその実態解明だろう」とどすのきいた声で語りだし、「そうだっ」と声がかかった。

 そして、失踪した技能実習生の問題の調査について「聴取表を国民に公表すべきであるというというのに、頑なに拒んでおります」と憤慨した。そして、「こともあろうにですねっ」と前置きしてぎょろりとあたりを見回し、「お経読み(法案の趣旨説明)もしていないのに採決を急いで、今週にも採決するというような、わけのわからないことを言っている自民党の関係者もいるそうですっ」と語り、今度は「えー」と声があがった。

 辻元氏は「これはとんでもない話だと思います」と大声を出し、続けて「さらにっ。安倍総理が29日あたりから外国に行くという。それまでに何が何でも参院に送らなければならないというような声も聞こえてきますけれども、立法府はですねっ、技能実習生の人権侵害にもあたるような実態を見過ごすのかっ」と大声を出し。「けしからんっ」と声が上がった。そして、「ですからっ。これは全党挙げて法務委員会をバックアップしてしっかりと膿をだしきるという姿勢でまいりたいと思いますっ」と話し、盛んな拍手を受けていた。

 次に、議院運営委員会の理事が不信任案の趣旨弁明を逢坂誠二氏がやることや、ほかにも議案があるなど本会議の段取りを説明し、「所要時間は3時間10分、プラス逢坂さんです」と言うと、なぜか笑いが起きた。

 「いろいろな人に逢坂さんのはどれくらいだと聞かれるので、『枝野代表の2時間40分は超えないだろう』と言ってます」などと言い出すではないか。どうも、通常国会の会期末に安倍内閣不信任案で裁量労働制のデータ不備問題や森友問題など、さまざまあげ2時間43分の趣旨弁明演説の向こうを張った演説を考えているようなのだ。

 ある自民党幹部は、あの日、ブラジル行きだかの外遊日程を立てていて、「辻元国対委員長に所要時間を聞いてもわかんないって言うしさあ、成田に向けて国会の庭にクルマスタンバイして準備してたのよ」などと話してたのを思い出した。

 「そしたら延々、声を張り上げてて、おわんないじゃない。ぎりぎりまで頑張ったけど、結局、便に間に合わなくなってキャンセルしたのよ。直前だからキャンセル料が高くてさあ。誰か、『枝野事務所に払わせろ』って言ってんのいたよ」としきりにぼやいていたっけ。

 そして、その逢坂誠二氏はマイクの前に立つと、やにわにタブレットを振りかざし、「本当は趣旨弁明をこれを使ってやりたかったのですが」などと話し、議運で認められなかったことを憤慨してみせた。それに「代表を超えろー」などと、「まさかの」掛け声がかかり、「おいおいおい」と思った。

 代議士会が終わると、すでに自民党の議員は、あわただしく議員が本会議場入っていくところで、廊下はごった返していた。前ではトレードマークの赤のジャケットと白のスカートと東京オリンピック選手団のような姿の松島みどり元法務大臣が、「長時間」が予想される本会議を控えてなにか資料でも読もうとしているのか「メガネはどこかしら」と秘書とおぼしき人に尋ねたりしていた。

 3階に戻り、記者席に着くと、正面の見開きの扉がしずしずと開き、入ってきた大島議長が着席し、その本会議が始まった。天井から昼の日差しが差し込む、午後1時だった。

 指名を受けて拍手の中、登壇した逢坂氏は、「本日の趣旨説明は、ペーパレスや利便性からタブレットを使用して説明したいと議員運営委員会に提案した。しかし、了解いただけなかった」などとさっきの代議士会での話を「この場」でも持ち出し、野党席からは「なんでだー」との声の一方、自民党席からは「早く本題、入れよー」などとヤジが飛んだ。

 そして演説は、自らが町長をしていた北海道のニセコ町での外国人労働者への対応を「今のところうまくいっている例」として紹介するなどして続いた1時半ごろになってやっと「本題」の山下法務大臣について語りだした。

 逢坂氏は「その資質は大丈夫なのかと思う場面も多々あります」と話し、自民党席から「失礼だっ」と声が上がった。そして、「担当の山下大臣の答弁が極めて不安定であり、議論は丁寧に議事録を確認しなければなりません。その意味でも拙速な審議を避けなければなりませんっ。与党内の審議も難航したのではないでしょうか」と語ると、自民党からは「余計なお世話だっ」とヤジが飛び、その中、逢坂氏は、「報道からその一端を紹介したいと思います」自民党内での議論を紹介した日経新聞や産経新聞の記事を次々と読みだした。

 うんざりしたムードが漂いだした議場を見ると、最後列の大臣らの席に座っている桜田義孝五輪担当大臣が袋から分厚い資料を取り出し、ラインマーカーで線を引き始めた。「連日、国会答弁で苦労してるものなあ」などと思ったりした。

 「演説」は1時間ほど続いたが、逢坂氏は「私は、この趣旨弁明の中でいたずらに、時間を延ばそうととは思っておりませんっ」と声を張り上げ、議場からは「えー」「えー」と、大声があがった。

 騒然とする中、逢坂氏は「この法案のっ、この法案のっ、どこに問題点があってなぜ慎重審議が必要なのか、そのことを説明しているのみでありますっ」とさらに大声を出し、野党席からの拍手の一方、自民党席からは「委員会でやれよーっ」と声があがり、苛立たし気な女性議員の声で「今は早く委員長の決議だろ。違うのかっ」と激しいヤジが飛んだ。

 これに今度は、逢坂氏は「先ほど来、与党席から委員会でやれ、委員会でやれとのヤジが飛んでおります。私も委員会でがっちり審議をするべきだと思っております」などと、ヤジに応え出し始めた。

 これには「じゃあやれよっ」などと声があがったが、逢坂氏は「しかし、しかしなぜっ、今ここで委員長解任決議案を出さざるを得ないのか。それは、葉梨委員長が拙速に審議を進めようとしているっ」と、大声を張り上げ、ヤジと拍手で議場は騒然とした。ふと見ると、桜田大臣の、黄色いラインマーカーを使っての「勉強」は、順調に進んでいるようだった。

 その後も「法案と葉梨委員長の問題点」をめぐる逢坂氏の「説明」は延々と続き、ついに逢坂氏が「しっかりとした認識を持っていただかないとならない。その思いを持って1時間20分、話をさせていただきました。以上っ」と言うと、議場には「おー」と、安どのどよめきが起こった。

 その後、各党の反対、賛成それぞれの討論が行われた。
安倍総理が姿を現したのは最後の共産党の討論の時だった。そして、議員の名前が読み上げられ、それぞれ登壇しての記名投票が始まった。

 いずれも、投票前に議長席の前で大島議長に一礼するので、この間大島議長は律義にも右斜め前方に体を向けて一人一人に会釈をつづけた。大島議長が総数450票、「解任決議」に「賛成」の白票132票、「反対」の青票318票、との投票結果を報告し、「解任決議案は否決されました」と言うと、自民党席で拍手が起こり、葉梨法務委員長が立ち上がり、うれしそうな表情で右と左に一礼した。

 議場の正面にある時計を見ると3時半をさしていた。ふと、目をやると、桜田大臣がラインマーカーでやたら線を引いた分厚い資料を袋に戻すところだった。「十分な時間」の後で、どこか「満足げ」に見えた。「やれやれ」と思った。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞