2018年11月20日
[ TBS政治部記者 後藤俊広 ]
「私とプーチン大統領の手で終止符を打つ。その強い意志を大統領と完全に共有いたしました。そして1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」 (安倍首相 14日/シンガポール)
14日夜、安倍総理のこの発言に永田町が響(どよ)めきました。
プーチン大統領の「年末までに平和条約」発言を受けての首脳会談であったことから「交渉を加速させる」という意味合いに、どの程度の迫真性があるか探るような声が飛び交いました。
「総理はレガシー(政治的遺産)を求めている。一気に動くかもしれない」(与党議員)
「相手はプーチン。一筋縄ではいかないな」(与党議員)
安倍総理が歴史に残る実績を求めているという見方は広くあります。政権を5年以上維持してきた内閣は次のような事柄を実現してきました。
佐藤栄作内閣(在任7年8か月)=「沖縄返還」
吉田茂内閣(在任7年2か月)=「サンフランシスコ講和条約」
小泉純一郎内閣(在任5年5か月)=「郵政民営化実現」
中曽根康弘内閣(在任5年)=「3公社(電電公社・国鉄・専売公社)民営化」
いずれも教科書にも載っている歴史的出来事です。
1次政権とあわせて7年近く政権を担ってきた安倍総理も、先輩総理らと比肩するような事業の達成を目指しているのでは。それが日露の平和条約であり、北方四島の問題というのです。
ただ日露協議は複雑です。日ソ共同宣言では、平和条約締結後に歯舞群島、色丹島を引き渡す内容となっていますが、残る国後・択捉はどうするのか?
領土問題にシビアなロシアが協議にどういった姿勢で臨むのか等々、見えない部分が数多くあります。
しかし、国内政局の観点から見れば言えることが一つあります。それは日露協議の進展次第では、安倍総理は“レームダック”化を防ぐことができると言うことです。自民党総裁に三選した安倍総理は、党則により四選は現状許されていません。
終着点が見てきた政権は、時間が経てば経つほど求心力が弱まるのが通例です。 9月の自民党総裁選の際、党員・党友票で石破元幹事長に善戦を許したのも一つの表れという指摘もあがっています。
しかし、日露協議で局面は変わり得ます。
「北方四島で“二島先行返還”や“二島+α”などの動きに現実味が出てくれば総理は『国民に信を問う』となるかもしれない」(与党議員)
ある与党議員は日露を争点に解散・総選挙もあり得ると話します。解散は総理の専権事項。行使するもしないも安倍総理の胸三寸次第です。
「日露協議が継続する中、解散もありうる」
そんな雰囲気が与党内に充満すれば、政局の主導権を握り続けることも可能となります。ただし、いずれにしても“ロシアとの協議に進展があれば”の話です。
安倍総理は今月末にG20サミット(アルゼンチン)と年明けにもロシアを訪れ、プーチン大統領と首脳会談を行う考えを表明しています。また来年6月に大阪で開かれるG20サミットに際しても首脳会談が開かれる予定です。
一連の会談でどういったやりとりが交わされるのか。国際政治だけでなく国内政治にも大きな影響を与えることになるでしょう。
後藤俊広(TBS政治部記者)
政治部官邸キャップ。小泉純一郎政権から政治取材に携わる。
プロ野球中日ドラゴンズのファン。健康管理の目的から、月100キロを課すジョギングが日課。