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TBS NEWS

2018年11月12日

「衆院予算委員会」の裏側 ~スタート臨時国会

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 秋の日差しがふりそそぐ衆議院第一委員室は、机の上に資料がのせたままだった。朝から予算委員会での補正予算案の審議が始まり、これから、午後の野党の質問が始まるのだ。新聞記事では「週明けからの予算委員会で本格論戦が始まる」などと書くところなのだが。

 記者席の最前列に陣取っていると、グレーのジャケット姿の片山さつき地方創生大臣が一番乗りで向こう側の入り口から秘書官を従えて入ってきた。大臣席の2列目の端のほうに座った片山氏は、後ろに座った秘書官に「だから今までー」などと大きな声でなにやら話しかけ、資料をもらっていた。しきりに記者席を気にするので目が合ったりしたが、どこかの官僚が後ろを通り過ぎようとすると、今度はその人に「私ねー。よこばたけさんと私わねえー」などと話しかけた。なんのことかなあと見てると、そこに安保法制の集団的自衛権と憲法の兼ね合いについての答弁を繰り返して一躍「有名」になった横畠法制局長官が現れて合点がいった。片山氏は「30年くらい前よね。1988年ごろ」などと大声で話しかけ、立ち止まった横畠氏は困った様子で、苦笑いでかわしていた。そこへ、今回新たに予算委員長になった野田聖子前総務大臣が、あでやかな青の上下のスーツに白いインナー姿に、見るからに高そうなハンドバックを携えて入ってきて、「またおいてきちゃった。ファイル」などと「可愛く」ちょっと困った顔をして職員に話しかけていた。

 そして、安倍総理が入ってきて着席すると、なぜかこれから質問する立憲民主党の逢坂誠二氏が困った表情で歩み寄った。そして、自分のネクタイを持ち上げてみせると、青に紺の細いストライプの入ったネクタイが安倍総理のと全く同じなのだ。

 これには、それまで野党の追及を控えて厳しい表情だった安倍総理もびっくりして「朝、選んだんだ」と笑い出し、逢坂氏もバツが悪そうに笑いながら頭をかいていた。

 しかし、立憲民主党の長妻昭議員が質問席に立つと、「よしっ」「お、がんばれっ」などと掛け声がかかり、一転して部屋の中は緊迫した。長妻氏は森友学園問題で財務省の関係者が責任を問われ処分されながら、麻生財務大臣が続投したことを取り上げ「まさに財務省の大元締めの麻生大臣、留任をされたということで、私驚きましたが、麻生大臣、自分は適材適所だと思いますか」などと質した。これに、麻生氏が「自分の能力が適材か否かにつきましては、自分で判断するほどうぬぼれてませんので、私自身としては後世の歴史家の判断に待たねばならぬと思っております」などと言うと、傍聴に集まっている野党議員から「たいしたもんだあ」とヤジが飛び、長妻氏は「とぼけた答弁じゃあないですかあ。本当に責任の重さを感じておられるのかっ」と声を張り上げた。

 そして、「近畿財務局には自殺をされた官僚の方がおられます」と語りだし、残された父親の話をすると部屋の中は静まり返った。「小さい時から曲がったことが嫌いでまっすぐな性分だった。上司に言われたとおりに書き換えたと遺書に書いてありました。それを書いたことは本人の負担になったと思います、、、」。そして、長妻氏は「こういう自ら命を絶たれた方に対して麻生大臣自身の政治責任をどうお考えですか」と迫った。これに、麻生大臣は「近畿財務局の職員が亡くなられたということは、まことに悲しい話だと思っています。残されたご遺族の方々のお気持ちは、おっしゃられたそれも一つだと思いますけれども、言葉もありませんが、静かに謹んでご冥福をお祈りするものであります」などと話したのだが、答弁書を見ながらの答弁だったために、長妻氏は「なんか、ご冥福をお祈りするのに、役所が書いた紙読むんですかっ」と怒りの表情で声を張り上げた。野党席からは「ひどいよ」とヤジが飛んだ。そういえば、この「自殺」が表面化してからしばらくたった時に、知り合いの自民党幹部が、「しかしさあ、関係の政治家が誰も墓参りしていないものなあ」とつぶやいたのを思い出した。確かに、地下鉄サリン事件当時に国家公安委員長だった野中広務氏は今年亡くなるまで毎年、事件のあった日に地下鉄霞ケ関駅に人知れず訪れ、黙とうしていたのを思い出した。「昔は、大物でも人の痛みがわかる政治家がいたのになあ」と思ったりした。

 そして、長妻氏は「財務局のOBの方は、こういうことを言っておりました。麻生大臣の留任続投について、あり得ないことだという風に思いますと」と麻生大臣に水を向けると、麻生氏は「退官されたOBの方々のいわゆるご発言等に、いちいちコメントをしていくというのはいかがなものかと思いますので、、、」と答え、「いちいちー?」とヤジが飛んだ。これに、麻生氏は「そういった、一つ一つは、いちいちっていうんじゃないですか。一つ一つ丁寧にするってのを言ったほうがいいんですか。今、申し上げた通りなんで、そういったことに意見もあると拝聴させていただきます」とぶぜんとした表情で語った。安倍総理は「経済政策の中核である麻生大臣にはですね、デフレからの完全脱却に向けて引き続き全力を尽くしていただきたいと思います」と語った。

 そして、野党の質問は「国税庁口利き疑惑」が取りざたされる片山大臣に移っていった。質問者は安倍総理と同じネクタイの逢坂氏だったが、さっきとは変わって、厳しい表情で、まず「政治資金収支報告書訂正問題」について聞いた。片山氏は、週刊誌に指摘された政治資金収支報告書の200万円の記載漏れを前日付で訂正していたが、これに「今後も訂正の予定はありますか」と質した。指名を受けた、片山氏は分厚い資料の束を持ちトコトコと答弁席に歩み寄り「一部マスコミからのご指摘を受けて事務所を精査いたしましたところ、すでに退職した当時の秘書が複数の政治団体からの寄付を、、、」と話し出すので、逢坂氏は座ったまま「内容聞いてませんっ」と声をあげた。これに片山氏は「あの訂正はもうすでにいたしました」と言うので、逢坂氏は「だから、聞いてません」とまた声をあげることになり、それでも片山氏は「訂正はもう致しました」と繰り返した。これに、質問に立った逢坂氏は「今後政治資金収支報告書を訂正する予定。そういう予定はありますかと聞いたんですっ」と苛立たし気に語気を強めた。これに、片山氏はまた、厚い資料の束を持ちながらトコトコと歩いてきて激しくフラッシュがたかれる中、「今後このようなミスがないようにしっかりとやってまいりますが、万が一そういうことがありましたら訂正をすることもあるかと思います。以上です」とすました顔でかたった。(その後も2週間たたないうちに34件450万円の記載漏れを訂正する事態となったのだが)。

 そして、「国税庁への口利き疑惑」については、「記事にあるような、私が企業への違法な口利きをしたこともなければ、100万円を受け取ったこともありません。事実と異なる記事がありますので、私の名誉を棄損することから、弁護士と相談の上、司法の場に提訴したところであります」「今後、記事が事実でないことを司法の場を通じてしっかりと明らかにしてまいりたいと思います」とメモを読みながら語った。ここまで、見ていて思ったのだが、2列目の端のほうの片山大臣の席と答弁席までの往復が、「トコトコ」歩いて、なにやら時間がかかり「時間稼ぎ」のようにも見えるのだ。次第に質問時間が限られている逢坂氏もいらだち始め「戻る時間がもったいないので引き続き話をさせていただきますがあ、、、」などと、片山氏戻る背中に向かって質問する事態となった。そして、片山氏は事実でないとこはどこかと聞かれ「随所にあります」と答えたり、キーマンとされる関係者に会った時期を聞かれ「訴訟上の問題でございますので控えさせていただきます」とか、「記憶の限りではございません」と答えたりし、そのたびに傍聴席からは「あやしいなあ」「隠してるんじゃないかあ」などとヤジが飛び騒然とした。けじめがつかず、「疑惑」が広がるばかりだった。

 この間安倍総理は、時折眉間にしわを寄せたり、腕を組んで目を閉じたり渋い表情を続けた。「政治資金収支報告書の問題」については大臣起用の前にわかっていて「官邸の一部」には慎重意見があったとか、「口利き疑惑」については、総務政務官当時から週刊誌はわかっていたが大臣になるまで「温存」しておいたようだ、などとさまざま話を聞いていただけに、「なんで、大臣にしたのかなあ」と、不思議に思えた。石破氏は、臨時国会の冒頭、裁判中を理由に片山氏が詳しい説明を避けていることをしきりに懸念していたっけ、と思った。

 「予算委員会というのは、消費税どうするんだ、外国人受け入れどうするんだ、経済どうするんだと。その根幹にあるのは、急激な人口減少どうするんだって話ですよね。それはそれできちんとやってもらいたい。いわゆるスキャンダル系をずっとやっているというのは、国民から見て何やってるんだろうねとなると思うんです。限られた会期ですからね。重要論点、憲法も含めてね」(国会トークフロントライン10月26日OA)

 会社に戻り、なんとはなしに机の本棚の山積みの新聞のわきにあった文庫本が目に入った。「忘れられない国会論戦」(若宮啓文著)。94年初版で、「敗戦後の混乱期からつい昨日まで、憲法と自衛権、経済政策、外交、そして公害等をめぐって政治家たちは熱く激しい論争を重ねてきた」とあった。第一章は「がっぷり四つの因縁対決」とあって、「芦田均vs吉田茂 元首相が挑んだ再軍備論争」「石橋政嗣vs中曽根康弘 『非武装中立』で丁々発止の攻防」といった具合だった。そして、「田中角栄のデビュー 自由討議で聞かせた『血の叫び』」「中曽根康弘の反ソ演説 与党の代表質問が全面削除に」というのもあった。さっきまでの第一委員室での様子が目に浮かんできた。「やれやれ」と思った。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞