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TBS NEWS

2018年11月9日

「各党代表質問」の裏側~スタート臨時国会

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 秋晴れの日だった。臨時国会での安倍総理の所信表明演説に対する野党の代表質問が始まるというので、イチョウの落ち葉を踏みながら、国会の本会議場に急いだ。第4次安倍改造内閣になって初めて、野党の代表が安倍総理に迫るというわけだった。

 2階に上がるとなにやら議院運営委員長室から自民党の国会対策委員長室までつながる「赤じゅうたん」の廊下が人だかりになっていた。

 知り合いに聞くと、高市議運委員長がなにやら国会改革のペーパーを「議運委員長名」で出し、なんと内容が「政府提出法案」の審議を優先し、議員提出法案の審議などは後回しになるとの内容で、野党が反発して本会議がひらけないという。自民党の控室を覗くと、本会議の開会待ちの議員があふれかえり、議運委員長の初仕事での「失態」にうんざりした表情をしていた。

 そして、しばらくすると、担当の議員が飛び込んできてマイクで「本会議は13時45分からです」と叫んだ。どこからか、「遅いっ」と声があがり、そのまま立ち去ろうとすると誰かに理由を言うよう言われたのだろう、「理由ですがなかなか議運で協議が整わず、申し訳ございませんでした。もう、みなまで聞かないで・・・」と苦しい表情を見せたので、今度は思わず「ははは」と笑い声があがったりした。

 本会議が始まり、最初に登壇したのは野党第1党の立憲民主党の枝野幸男代表だった。

 拍手と、「おー」との掛け声に迎えられた枝野氏は、議場に向かって深々と一礼すると「先の通常国会の閉会後、大島議長は『今国会を振り返っての所感』という談話を出されました」と話し始めた。そして、「『森友問題の決裁文書をめぐる改ざん問題』、『裁量労働制に関する不適切なデータの提示』、『陸上自衛隊の海外派遣部隊の日報に関するずさんな文書管理』をぐ、た、い、て、き、に指摘しっ、『立法府の判断を誤らせるものであり』『議院内閣制の基本的な前提を揺るがす』とまで述べっ、、、」と大声を張り上げ、議場の野党席から「その通りだー」などと声が上がった。 この間、大島議長は一段上の議長席で、眉間にしわを寄せ、口を真一文字にして正面をじっと見つめつづけた。

 そして、枝野氏は質問を、この国会の焦点である「外国人労働者受け入れ拡大問題」に移し、「これまで総理自身が否定してきた移民受け入れ政策への転換とどう違うのか」と質すと、すかさず「その通りっ」と声が上がった。「合わせて問われるのは受け入れ体制です。職場環境、日本語習得体制、住宅問題、社会保障など、本格的な受け入れの前提となる整備は十分とは言えませんっ」と声を張り上げた。

 そういえば、「国会トークフロントライン」のスタジオで、石破茂元自民党幹事長が、来年4月の開始を目指した「外国人労働者受け入れ拡大」の法案審議の在り方をしきりに心配していたことを思い出したりした。

●石破氏「フロントライン」10月26日

 「今回は移民政策でないんだと。単純労働者を受け入れるぞというのは、我が国の移民は入国時で永住権を取得するものだがら違いますよ、だから移民政策でないと。しかし、移民の定義は本当にそうか。世の中の人が心配しているのはそういう単純労働者を移民と言うのではないかということ。しかし、実際に労働力は足りない。どの分野で足りないか精査しないと業種がどんどん増える。そして、語学とか、日常習慣など、どうやって日本の社会で暮らしていけるのか。日本の政府が責任をもって習得してもらわないと、ドイツの二の舞になる。そして、外国人の方が来てくれるなら、ただ安い賃金でというコストカットみたいな意識が経営者に出てくることはないだろうか。外国人の安い賃金の労働者に日本人を合わせると逆に賃金の低下を招いていくのではないか。そうならないため、どうするか。その手立てが必要。どうやって外国の方が働くことで日本人の賃金が下がらないか、説明も必要だ。まずは、国会でいろんな論点をきちんと解明する。あーそうだねと、国民もこういう問題があると理解してもらえるかどうかですよ」

 枝野氏の質問を受けて、登壇した安倍総理はびっくりするようなスピードで答弁書を読んだ。「外国人労働者受け入れ拡大問題」では「政府としてはいわゆる移民政策をとることは考えておりません」と話し出し、野党席から「どう違うんだよお」と苛立ったヤジが飛んだ。それでも、安倍氏は早口で「すなわち新たな受け入れ体制は深刻な人手不足に対応するため、現行の専門的、技術的分野における外国人の受け入れ制度を拡充し、真に必要な業種に限り一定の専門性技能を有し、即戦力となる外国人材を期限を付して、我が国に受け入れようとするものであります」などと、「通り一遍」の言い回しでまとめた。

 次に質問に登壇したのは自民党の役員人事で総裁補佐になった稲田朋美元防衛大臣だった。南スーダンPKOの日報改ざん問題の責任をとり防衛大臣を辞任してから1年あまりでの復権の「ひのき舞台」だっただけに野党席はざわついた。

 その中、稲田氏は、自民党は野党に転落した当時に、「真摯な議論」をしたとして、「立党以来まもり続けてきた自由と民主の旗の下に、伝統の上に創造を、秩序の中に進歩を求め、『日本らしい保守主義』を取り戻すべく、再出発することを国民の皆様にお誓いしたのですっ」と力を込めたが、「何言ってんだかわかんねーぞっ」とのヤジを浴びることになった。

 それでも、「今年は明治維新150年、明治の精神ともいうべき五箇条のご誓文は『広く会議を興し、万機公論に決すべし』、さらに歴史をさかのぼれば、聖徳太子の『和をもって貴しとなす』という、多様な意見の尊重と徹底した議論による決定という民主主義の基本は、我が国古来の伝統であり、敗戦後に連合国から教えられたものではありません」と声を張り上げ、今度は「何言ってんだよっ」とヤジを浴びていた。

 そして、憲法改正問題で「自衛隊を誰からも憲法違反などとは言わせない。そのためにも憲法改正は急務だと思いますが、総理のご所見を伺います」などと声を張り上げるなどした。

 これを受け登壇した安倍総理は、一転して噛んで含めるような答弁に変わった。そして、「自衛隊と憲法改正についてお尋ねがありました。憲法改正の内容について私が内閣総理大臣としてこの場でお答えすることは控えさせていただきたいと思います」と、いつにないことを言うので、一瞬本会議場に沈黙がひろがった。

 ただ、一拍した後、安倍氏は少しニヤリとして「そのうえで、お尋ねですので、あえて私が自民党総裁として一石を投じたと考える一端を申し上げたいと思います、、、」といつものように持論を滔々と語りだしたため、野党席からは「結局、言うんじゃないかあ」とヤジが上がる一方、自民党席からは「えっ、へっ、へ」などと笑いが起こった。本会議場での「論戦」は夕方まで続いた。

 数日後、思い立って、高輪に足を運んだ。古いアパートの一室にある事務所に入ると、長い間、番組「時事放談」に出演してもらった藤井裕久元財務大臣が笑顔で迎えてくれた。

 そして、番組が終わったことを詫びると、「いやいや、お世話になったよ。でも、楽しかったね。ありがとう」と言ってくれた。そして、自然と話題は国会論戦にうつり、「しかし、外国人労働者は大丈夫かねえ。人手不足だからある程度は来てもらわないとならない。でも、その条件をどうするかだよねえ。ヨーロッパみたいになるとねえ。そして、日本語を話せるようになってもらうとか、受け入れ体制が大事なのにそういうことはいろいろ先送りで法案作ってるだろ。来年4月からなんて無茶だよ」などとしきりに心配していた。すっかり、長居をすることになり、アパートを出た時には肌寒い夜になっていた。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞