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TBS NEWS

2018年10月31日

「所信表明演説」の裏側 ~スタート臨時国会

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 さあ、臨時国会のスタートだ。衆院本会議での安倍総理の所信表明に先立つ自民党の両院議員総会に向かった。控室は、まだ時間があるとあって安倍総理の登場を待つカメラマンは「へえ、昨日の憲政記念館での『明治150年』の集まりは入れなかったんだあ」「そうだよ、道路っぱたで写したんだよ」「よかったあ、行かなくて」「閉鎖的だねえ」などと、前日の取材のようすなどを話していた。準備周到なNHKの技術は、正面の前のマイクに立って「マイクテスト、マイクテスト」と繰り返す中、まずは両院議員総会長の尾辻秀久元厚生労働大臣が入ってきて、最前列の左端にすわった。そして、ほどなく今度は船田元氏が入ってきて、最前列正面の真ん中あたりに座った。そこに座ると、まもなくやってくる安倍総理と近距離で向き合うことになる位置だった。船田氏は、衆議院憲法審査会の幹事で、野党との話し合いを重視する「協調派」として、この臨時国会での憲法改正のスピードアップを目指す安倍総理の意向を受け、交代させられたばかりだたっけ。カメラマンも怪訝そうにその姿を眺めていた。

 次第にぞろぞろと議員が思い思いの席に着き始め、そこに、第4次安倍改造内閣で唯一「女性大臣」として初入閣した片山さつき地方創生大臣が赤のジャケット姿で現れた。週刊誌で「国税庁への口利き疑惑」が報じられた後だけに、盛んにフラッシュがたかれた。それでも、片山氏は、気にする風もなく、女性議員に近づくと「なんでいらっしゃらないかと思ってさあ」などと、親し気に大声で話したりした。わきでは、こちらも「協調派」として憲法審査会の幹事を交代させられた中谷元元防衛大臣が、憲法審査会長に残留した森英介氏のとなりに座り、なにやら話していた。

 そこへ、拍手に迎えられ、青いスーツに紺のネクタイ姿の安倍総理が登場した。そして、スタンドマイクの前に立ち「おはようございますっ。8月、9月と、総裁選等もありましたが、みなさん英気を養えていただきましたでしょうかあっ」と呼びかけると、「あははは」と笑い声がひろがった。その中、安倍総理は「まさに今、歴史の転換点にいて、教育の無償化、社会保障制度の全世代型への大きな改革、そして戦後日本外交の総決算、またさらには憲法改正と新たな国づくりに向かってともに頑張っていこうではありませんかあ」と声を張り上げ、「そうだあ」などとの声とともに、拍手が起こった。そして、マイクスタンドを握りしめながら「この臨時国会でも先輩たちがそうであったように、堂々と自民党らしい論戦を展開しながら、国民の皆様方と共に、平成のその先の時代に進んでいきたいと思います」とまとめ、また拍手が起こっていた。そして、会議が終わった後は、クリーム色のあでやかな着物姿の野田聖子前総務大臣の周りに稲田朋美元防衛大臣や加藤紘一元幹事長の娘の鮎子氏らが集まり、なにやら話し込んでいた。

 本会議10分前の予鈴がなる中、本会議場を2階部分のへりでぐるりと取り囲む記者席に入ると、ひな壇の後ろにはすでに職員がならんで座り、議席には議員がぞろぞろと入ってきた。

 小泉進次郎氏が入ってくると盛んにフラッシュがたかれたりした。議場が埋まり、ひな壇に安倍総理はじめ大臣がそろったところで、正面の見開きの扉がしずしずと開くと議員全員がバタバタと立ち上がり、大島議長を迎えることになる。そして、指名を受けて登壇した安倍総理は「世界は今、かつてないスピードで変化しています」と声を張り上げた。

 そして、「私たちもまたこれまでの常識を打ち破らねばなりません。私たち自身の手で、今こそ新しい日本の国づくりをスタートするときでありますっ」と力を込めると、自民党席で拍手が沸く一方、むこうの野党席からはさっそく「それ、何回言ったよ。何回っ」などとヤジが飛んだ。そして、演説が臨時国会で最大の焦点の外国人材受け入れ拡大問題にさしかかり「入国管理法を改正し、就労を目的とした新しい在留資格を設けます」と言うと、すかさず、「移民じゃないかっ」と、これまで安倍総理が移民政策はとらないと繰り返してきたのと矛盾するとのヤジがとんだ。安倍総理が、すました顔で「生活環境の確保に取り組んでまいります」などと原稿を読み続けるものだから、野党からは「移民政策とるんですかっ」「移民政策、転換するんですかあ」などとさらに大声で叫び声がとんだりした。

 演説が、外交にさしかかり、北朝鮮問題について「次は私自身が金正恩委員長と向き合わなければならない」と言うと「一年前と言ってることが違うじゃないかあ」とヤジ、「私とプーチン大統領との信頼関係の上に、領土問題を解決し、日ロ平和条約を締結する」と力を込めると「翻弄されてるだけじゃないかあ」と大声があがった。ここまできて、気づいたのだがヤジの一方で、どうも自民党からの拍手が少ないのだ。時折、安倍氏が大声を張り上げても、「スルー」してしまうのだ。「総裁選では8割が投票したのに」などと思ったりした。

 その中、演説は憲法改正問題に移り、安倍総理は「国の理想を語るものは憲法です」と語りだすと、憲法を権力をしばるものだとする「立憲主義」を念頭に、野党からは、いきなり「ちがうよっ」「だからだめなんだっ」と続けざまに大声が上がった。それでも、安倍総理は「あるべき姿を最終的に決めるのは国民の皆さまです」と声を強めて拳を振り下ろし、「制定から70年以上を経た今、国民の皆様とともに議論を深め、私たち国会議員の責任を、ともに、果たしていこうじゃありませんかっ」と呼びかけた。これには、さすがに自民党席から拍手が沸いたが、上から見ると5分の1は拍手をしていない状態だった。もちろん、船田氏は微動だにしていなかった。

 演説の最後で、安倍総理はだしぬけに「明治の、その先の時代の国つくりを強力に進めるにあたり、原敬はこう語っています。『常に民意の存するところを考察すべき』…」と語りだした。「リーダーシップ型」の安倍総理の、この発言に野党からは「あははは」と、今度は笑い声が上がった。その中、安倍総理は「私もまた次の3年、国民の皆様とともに、新しい国づくりに挑戦するっ。6年前、国民の皆様とともに政権奪取を成し遂げた時の初心、挑戦者としての気迫は、いささかも変わるところはありませんっ」と続け、野党からは「辞めろー」と苛立たし気なヤジがとんだりした。そして、今度は「しかし、長さゆえの慢心はないか」と続けるものだから、野党から「慢心だらけじゃないかあ」と大声でヤジを受けた。それでも、「そうした国民の懸念にもしっかり向き合ってまいります。むしろその長さこそが、継続こそが力である。そう思っていただけるよう、一層、身を引き締めて政権運営に当たる決意であります」「希望にあふれ、誇りある日本を、皆さん、ともに、作り上げようではありませんかあ」と、声を張り上げると、さすがにこの時は自民党席から「おー」という歓声とともに、拍手がわきおこった。

 この「慢心」については、石破茂元幹事長が、片山さつき地方創生大臣の「国税庁への口利き疑惑」で片山氏が「裁判中」を理由に詳しい説明を避けていることや、杉田水脈議員が同性カップルを念頭に『生産性がない』と寄稿した問題などスキャンダルが続いていると、「国会トークフロントライン」のスタジオで憤慨することになったのだが。

■ 石破茂氏(国会トークフロントライン 10月26日放送)

 『片山大臣疑惑』「裁判中なので細かい説明を避けるってよく言うパターンですけどね、ですけど国務大臣であり、これから国会がはじまるわけであって、裁判中だからということではなくて、国会の場、あるいは日ごろの記者会見で、自分の考えをきちんと述べたほうが、より広範な理解が広まる、当たり前のことだと思います」

 『杉田水脈氏LGBT寄稿問題』「あれのっけた雑誌は休刊という名の実際は廃刊みたいなことになっているわけですよね。一方で、こういうような問題になっている。ですからそういうような発言をした議員は、いや自民党の中にも多様な意見があるよっていうことではなくて、自分の発言がどうであったのか、撤回するのかしないのか、ていうことはきちんと言ってもらわないと、いつまでもこれ引きずりますよね。どうみたって、不適切だって発言は、そのままにするんじゃなくてけじめはつけないと、自民党の自浄能力を問われることになる」

 演説を終え、ひな壇の席に戻り、満足げに議場を見回す安倍総理をまえに、中央に座っていた自民党の議事進行係の議員が、やにわ立ちあがり「ギチョーッ」と大声を張り上げた。それでも、これは、声をあらん限りに振り絞って長く声を上げるのが慣例で、この日は「声足りねーよ」などとヤジを浴びてしまってた。それでも、残りの質疑は後日行うことなど「議事進行」を続け、最後に「望みまーあっす」とまとめていた。これを受け、三々五々に議員は退場したのだが、眺めると、進行係の周りに「まずいと思ったのか」先輩議員が数人集まり、手ぶりを交えながら「まあーーーっす」、「まあーーーっす」などと「指導」していた。

 議場の記者席を離れ3階の便所に入ると、ちょうど「居残り指導」の目にあってしまった「進行係」の議員も本会議場の入り口のある2階から上がって、入ってきて、同僚議員に「難しいね、あれね」などと照れてみせていた。そして、「船頭、多いからね」などと慰められていた。


■ 国会トークフロントライン(10月26日放送)は、こちらから

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞