NEWSの深層

TBS NEWS

2018年10月18日

「2018.10.11」 ~追悼 仙谷由人氏

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 仙谷由人氏の事務所は新橋駅のSL広場の脇のニュー新橋ビルの4階にある。

 その日の夜、サラリーマンの待ち合わせでごった返す広場を抜け、焼き鳥の煙の立ち込める居酒屋や若い中国の女の人が呼び込みをするマッサージ店のならぶビルのフロアーをエスカレーターで上りながら、昼のことを思い出していた。

 「仙谷さんが亡くなったという話がある」。政治部からの連絡を受け、古い知り合いの秘書に電話をかけると「ただいま電話に出れません」と、「機械音」が応じた。数日前にも「仙谷氏が心肺停止だ」との話もあったので、「とうとうきたんだな」と思ったりした。別件で自民党本部にいると、その秘書から電話がかかってきた。「一方的に言うので聞いてください。10月11日、夜10時30分。22時30分ですね。肺がんで、亡くなりました。葬儀は近親者で済ませました。あ、でも、お別れの会は別途やろうと思っています」ということだった。「わかった」と、応じるのが精いっぱいだった。

 仙谷氏との「付き合い」は土井たか子氏が委員長だった旧社会党担当だったころにさかのぼる。当時、仙谷氏は、社会党内で政権交代を掲げて旗揚げした若手議員集団「ニューウェーブの会」の主要メンバーだったのだ。今日は、10月16日。「時事放談」の最終回の1つ前の出演で、収録にスタジオに来てもらったのが9月21日。その時は、元気そうだったのに。

 暗い気持ちで、ノックして押すと、事務所の扉はそのまま開いた。「すみません」と中をうかがうと、古くからの秘書が「おう」と招き入れてくれた。時折、仙谷氏を囲んで、朝日新聞やら共同通信やら記者仲間で酒を飲んで言い合いをした会議室は、主をなくして、がらんとしていた。「収録の時はあんなに元気だったのに」と言うと、秘書は、「あんたのテレビにでるというので気を張っていたんでしょう」と、沈んだ表情で語った。そして、「夏に、もう医者に言われて。いろいろがんがでてると。もう覚悟はしていたと思う」という。「10日に病院に行って、電話がかかってきたんだけど。いろいろ指示して…」。

 そして、秘書は、選挙の演説が理屈っぽくて下手だったことや、鳩山政権のころの話や、菅政権のころの話を、問わず語りで長々と話した。

 直前まで、事務所で人に会ったり、資料を読み込んだり、仕事をしていたという。確かに会議室の棚には、ブレーンだった水野和夫氏の本などが並び、書類がさまざま挟んであった。「資本主義の終焉、その先の社会」「新・資本主義宣言」。日本の行方に危機感を持っていたのだろう、この、会議室での仲間との議論がよみがえってきた。講師を招いての「朝食勉強会」は1998年から始まっていて、それをまとめた冊子がファイルで並んでいた。「模範六法」「医療六法」、そして、なにやら「検察官開示記録」。写真を撮っていいかと聞くと、「あんたなら悪く使わないだろうから」と言ってくれた。

 そういえば、9月21日の番組収録では、自民党が「安倍VS石破」の総裁選をしながら、直面する重要課題の本格的な論戦がなかったことを、石破茂氏を隣にしながら強い調子で怒ってたっけ。

『人口と社会保障と原発と』

 「政治家というか議員さんよりも地方の方々が、特に地方の方々はと言った方がいいのかも分からないけども。現状について、危機感があるのかも分からない。つまり、労働力が不足してきているという決定的なこの人口政策の結果みたいな話なんだけど、これはもうたぶん自民党の先生方がこの1年間ね、外国人労働者を受け入れるかどうかで、コロっと態度が変わったっていうのが、厚生労働省の役人も面喰っているけども、現実なんですね。もう背に腹はかえられなくなっているんですよ、現場にいる人たちは。

 更に、国の借金問題と高齢者医療の問題をね、社会保障制度改革やりますなんて誤魔化した言い方は駄目だって僕は思っていまして。まさに財政規律の問題、健康保険財政をどう立て直すのか、これから持続可能にするのかってこの話からね、実は候補者二人とも逃げてる。

 もうひとつ逃げているのはね、エネルギーですよ。原発から逃げています。僕は受け入れることが正しいとか、脱原発が正しいとかどっちでも良いんだけども、この論争をやってもらわないとですね。北海道の地震で今度分かったのは、電力にこれだけ依存している我々というか、当たり前と思っているんだけども、実はこれちょっと電力が使えなくなったらどうなるのと。医療までできないよねと、飯も食えない、水も飲めないみたいな話になってきてんじゃないのという。このエネルギー問題をね。これ日本は中東から原油と天然ガス買ってですね、今85%ですよ。こんなことで、これ地球温暖化の問題がどうなるのかとか、そっちの問題まで行っちゃっているんだけど。エネルギー問題をやっぱり真っ正面からやって頂かなかったっていうのは、まずいなと思っています」

 本棚の横には頻繁に訪れ、国造りの手伝いをしていたミャンマーやベトナムなどの資料が箱から飛び出すほどに並んでいた。

 そして、その脇にはたぶん、そのミャンマーなどの地図なのだろうが、パネルが並んでいた。パネルを掲げて、現地で見てきたことや考えたことを夢中に語ったのだろう。そんな仙谷氏の姿が目に浮かんできた。そういえば21日の収録では、国際問題をしきりに心配していたっけ。

『トランプ大統領は…』

 「トランプ大統領は、こういう人を選んでしまったアメリカ国民、そういうレベルに落ちてきているということでしょう。相対としてね。僕はトランプさんっていうのは、時代認識というか大袈裟に言うと歴史認識というかね、あるいは現在の国際的な状況について、全くこれほど無知なことっていうことは酷いなと。

 つまり、もう今やグローバルサプライチェーンネットワークっていうんですが、こういうふうに部品がみんなどこで作って、どこに持ち込まれて、それが次の産品になって、こうやって完成品になるんで。例えば、スマホの付加価値はアメリカ50%とって、それから日本が40%とって、中国がたったの5%でしかないんですよ、みたいなですね。そういう話とかも、あらゆる製品について部品と流れは全部そうなってるんですよね。だから、自由貿易というか関税無関税が必要だというのが生産者というかものづくり企業中心に大きいんだけども。だからこれ、こんなことやったらアメリカの産業潰れますよね。僕はアメリカの産業の事の方が心配します。あるいは、たぶん、たったったったとインフレ化するでしょ。これも大変心配ですね」

『トランプ×キムジョンウン×ムンジェイン』

 「北朝鮮問題についてはトランプさんって、何だか中間選挙のためにやってるとかなんとかという、そういう見方は多いですよね。そんな目先の選挙のためだけにやられたんじゃたまんないと。で、これ、韓国もですね、北朝鮮とここまで親密ムードというか、そりゃ言語が同じでね、民族が同じだから、そりゃまあ僕は半分ぐらいは少々気持としては分からんことはないけども。今までの彼らの韓国のポジションからすれば、あるいは政策からすれば、何なんだと言う気持はね、日本人でもあると思うんですよ。ただこれ、韓国にしてもロシアにしてもですね、あるいは中国にしても、何かこう一方的に、日本って、この頃は通告を受けるだけで、なぜそうなのっていう説明を安倍さんって受けてないですよね。

 あるいは外務省がそれをちゃんと探っていないというか、調査していないというか。だから報道も、なぜ韓国のムンジェインってここまでやるのっていうのは分からないですもんね。これ困った話だと思います」

そして、ミカン箱の上に「在職19年」の表彰状が飾ってあったり、

 壁には、だれが贈ったのか、「慈愛」と書いた額があったりした。

 ならばと、「執務室もいいですか」と尋ねると、「いいよ」という。中に入ると狭い部屋に、ところ狭しと、本やら資料やらに囲まれた仙谷氏の机があった。なんとも居心地のよさそうな机と椅子で、ここに籠って本やら資料を読み漁り、パソコンに原稿を打ち込んだりしている、この部屋の主の姿が目に浮かんできた。

 なにげなく机の上の資料に目をやると、「第5回ミャンマー医療器人材育成研究会次第」と題した資料があった。その紙には、いくつかの講演と、意見交換などの段取りの後に、「6 総括的コメント(5分) 仙谷由人日本ミャンマー協会副会長」とあった。
 そして「日時:2018年11月8日 木 15:00~17:00、場所:JICA研究所(市ヶ谷)」というのだ…。「行くつもりだったんだ。本当に最後まで仕事をしていたんだ」と思った。椅子にあった足掛けの毛布を手に取ると少し温かかった。狭い部屋のどこからか「あんたはまだまだ頑張んなさい」と、仙谷氏の声が聞こえた。秘書が脇にいるのに、不覚にも涙が止まらなかった。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞