NEWSの深層

TBS NEWS

2018年10月9日

「第4次安倍改造内閣、自民党役員人事」の裏側

[ TBS政治担当解説委員 石塚博久 ]

 自民党4階でのエレベーターを降りると、エレベーターホールには記者があふれかえり何台ものテレビカメラが待ち構えていた。朝の9時前。フロアーには記者クラブのほかに総裁室や幹事長室があり、まもなく安倍総理が現れるのを待っているのだ。壁際に潜り込むと、前でNHKの記者が緊張の面持ちで中継のリハーサルを繰り返し、「安倍総理大臣は自民党役員人事を行うため間もなく自民党本部に入ります。役員人事は二階幹事長、岸田政調会長を再任し、総務会長には加藤勝信氏、選対委員長には甘利明氏を新たに起用しますっ」などと声を張り上げていた。そして「安倍総理は来年の参院選挙に向けて実績を積み上げていくため、安定した政権基盤を整えたい考えです。安倍総理は奥の総裁室でそれぞれ起用を伝え、午前10時から開かれる臨時総務会で人事案の了解を取りたいと考えで、新執行部は11時ころからそろって記者会見に臨むことにしています」とのことで、わきにいた、フロアーディレクターはガチガチの若い記者の緊張を解きほぐそうと「オッケー」と声をかけていた。

 そこに、10人ほどのSPがぞろぞろとエレベーターから降りてきて、フロアーに散らばって配置につき、奥の総裁室まで20メートルほどのスペースに、総理の歩く「道線」を作ったりし出した。エレベーターの表示が1階から上がりだすと、古手のカメラマンから「そろそろ来るぞー」と声が上がり、番記者に囲まれた二階幹事長が現れた。さかんにフラッシュがたかれる中、「おはようございます」と声をかけられ、立ち止まって丁寧に一礼して、奥に入っていった。そこへ、元法務大臣の金田勝利氏が登場すると、「だいじーん、今回入閣はないんですかあ」などと、「悪い冗談」が飛び、「ないねー」と苦笑いで返した。次には、選挙中に配ったうちわが問題となり辞任した松島みどり元法務大臣が赤いジャケットに白いスカートという東京オリンピックをほうふつさせる姿で登場し、今回、広報本部長に起用され久しぶりに「活躍の場」についたとあって「おはようございまーす」と満面の笑みで大声を上げて通り過ぎていったりした。

 そこに、不意にリーダーと思われるSPが「まもなくっ。総理が一階に到着したので通路よろしくお願いしまーす」と大声を上げ、カメラマンらは「はーい」と声をそろえて応じた後は、周囲は沈黙し、緊張につつまれた。エレベーターを降りた安倍総理は青いスーツ姿で胸に羽をつけ、SPに囲まれて歩き出し、ぺこりと一礼。それだけでは「絵」にならないとカメラマンが慌てて「おはようございまーす」と大声を出すと、小声で「おはようございます」とつぶやいてまたぺこりと頭を下げて、奥に入っていった。何やら疲れた様子だった。カメラマンからも「進次郎いねえもんなあ」と、筆頭副幹事長を務め、人気の小泉進次郎氏が今回、「はずれた」ことに不満が漏れたりした。総理番の記者は「安倍総理、総裁、4階入りましたあ。はーい」などと、それぞれキャップに連絡していた。

 そして、そのあとは、朝、NHKの記者がしゃべっていたように、臨時総務会の段取りなわけだった。6回にある総務会室の前では、今回退任する竹下総務会長の番記者が「議運委員長に竹下さん入るかなあ」「クルマつくといいですね」「そうだよ○○さんの運転よりは」「やだよなあ」と、ごそごそ話していた。どうやら、誰か運転が荒いらしく、クルマに同乗して「箱乗り取材」する記者としては、なんとしても車がついている役職についてほしいらしかった。しかし、総務会は「党の最高意思決定機関」という、重要な機関なのだが、なんせ部屋が狭いのだ。総務が座る椅子と壁の間は1メートルほどしかなく、そこにさっき4階のフロアにいた記者とカメラマンが全員入ろうとするから、土台無理な話なのだ。総理が通る通路以外は「ぎゅうぎゅう詰め」状態で、その中にまみれて額から汗が流れても、ぬぐうこともできない始末だった。そこに、「金銭問題」で大臣を辞め、今回選対委員長に「返り咲いた」甘利明氏が「おはようございまーす」と笑顔で現れ、そのあとに松島みどり氏がなおも満面の笑顔で続いて入ってきたりした。すでに、今回、「苦悩の果て」に総裁選の出馬を見送り、再任の岸田政調会長は着席しているのだが、なにやらつまらなそうに所在なさげに手元の資料をペラペラ眺めていた。壁に押し付けられる状態で記者の隙間からそんな様子を見ながら「圧勝を目指した安倍陣営を相手に石破氏が地方票で45%の得票と予想外の『善戦』だったものなあ。岸田氏は、自分も出ればよかったとか考えてるのかしらん」と思ったりした。しばらくすると安倍総理が到着し、「先般の総裁選挙により新たに総裁に再任されました安倍晋三です。この間、総務の方々には党の運営にさまざま賜り、あつく御礼申し上げます。この度、内閣改造に合わせて役員の改正を行ったところでありまして、ご紹介をさせていただきたいと思います」とあいさつし、その後、役員が順番にあいさつに立ち、その後記念撮影におさまった。ここでも、カメラマンからは「進次郎がはいらなきゃ無意味だよ」などとのぼやきが出たりしていた。

 で、4階に戻り、新4役の記者会見だった。4人が会見室に現れ、二階氏はしづしづとマイクの前に立ち「自民党に対して与党としての責任、政党としての実を上げておるという評価が得られるように党運営を心がけてまいります」とうなるように語ると、ぎろりと周囲を見回せて見せた。そして、各氏のあいさつとなり、甘利選対委員長は「来年は統一地方選挙、参議院選挙、この2つが行われる、12年に1度の選挙にとっては最大の事案が待っているわけです。もとより各種選挙は政権基盤の安定、政策運営の続行に重大なかかわりがある事案であります。一議席でも多く、そして少しでも安定的な政権政策運営ができる基盤が確保できるように、っしっかりと職責を果たしていきたいと思いますっ」と力を込めた。そして、幹事社の質問となったのだが、今後の党運営などへの質問があったのだが、その後は質問が途切れてしまった。当初、予定した20分の会見時間はたっぷりとあまり、司会者は「どなたか質問ある方」などと、何回か水を向ける事態で、しばらくの沈黙の後、たまりかねたようにどこかの記者が、甘利氏に向かって「金銭疑惑などがあったが、今回役員になるにあたってどう受け止めていますか」と、ついに「禁断の質問」が飛んだ。これに、甘利氏は、なんとも不快そうに眉間にしわを寄せて「まずは正確な記事を書いていただきたいと思います。あの事件については私、秘書とも刑事訴追をされていません。とくに私については、検察審査会もその必要性を認めていないっ」と語りだした。そして、「私自身は、秘書が大臣室に、後援会に入ってくださった人が、熱烈なファンになったと。テレビでの活躍を見てだと思うが、そこで就任祝いに上がりたいとこられました。その際にいただいたお祝は『届け出をせよ』と指示した。届け出がきちんとなされていると、第3者に確認されました。快気祝いも同様ですっ。それが、すべてでありますっ」などと、説明を続けた。説明はしばらく続き、予定時間の20分になった時には、会見室いっぱいに、思いっきり暗いムードが広がってしまっていた。それでも、恒例の4役が手をつないでの記念撮影が始まったものだから、カメラマンから「こちらお願いしまーす」「こちらお願いしまーす」と声がかかって、フラッシュの中、撮影はしばらく続いたものだから、甘利氏は眉間にしわを寄せた「怖い顔」のまま写真に納まることになってしまったのだった。

石塚博久

石塚博久(TBS政治担当解説委員)

1986年、日本経済新聞社入社。大阪本社証券部、名古屋支社(愛知県警、名古屋市役所担当)を経て、90年から東京本社政治部。官邸クラブ(海部政権)、野党クラブ(社会党土井委員長、田辺委員長)、平河クラブ(自民党竹下派担当、92年竹下派分裂など)等を担当。
1996年TBS入社。政治部で新進党クラブ、平河クラブ(自民党橋本派担当)、外務省(田中真紀子外務大臣)等を担当。その後「筑紫哲也NEWS23」ディレクター、デスクを経て、「時事放談」を制作プロデューサーとして立ち上げ。現在、TBS報道局政治担当解説委員。
著作:「官僚」(共著)新聞協会賞受賞