2018年10月5日
[ TBS科学担当解説委員 齋藤泉 ]
40年かかると言われる福島第一原発の廃炉。その技術的な助言や指導をまとめた原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、NDF)が2018年版の「廃炉・戦略プラン」をまとめた。
今回の戦略プランでは、廃炉プロジェクト全体をカバーするため、プランの構成を変えたという。炉心溶融=メルトダウン事故を起こした1号機から3号機について、現在、溶け落ちて固まった燃料デブリの取り出し、廃棄物対策、汚染水対策、そして使用済み燃料プールからの核燃料取り出しなどを同時並行で進めている。それぞれの課題の関連性を考えながら廃炉を総合的に管理する方針を打ち出した。
国と東京電力が策定した廃炉の中長期ロードマップでは2021年内に1号機から3号機のいずれかで燃料デブリの取り出しを開始することになっている。その取り出し方法については、2019年度に確定するとしている。
当初は原子炉格納容器を水で満たして燃料デブリを取り出す「冠水工法」が有力視されていた。しかし、2017年版の「戦略プラン」では、水を満たさずに原子炉格納容器に近づけたセルから取り出し装置を伸ばし、横からアクセスして燃料デブリを取り出す「気中工法」を採用する方針が示された。2018年版でも、この方針を変えていない。計画では3年後には始まる燃料デブリの取り出しだが、汚染水の処理問題が廃炉計画全体に影響を与えかねない状況になっている。
福島第一原発では今も一日に100~250トンの汚染水が増え続けている。汚染水は敷地内にある多核種除去設備(ALPS)で放射性物質を取り除く処理をしているが、トリチウムについては除去することができない。処理した水は貯蔵タンクに入れて敷地内に保管しているが、このタンクの数が増え続け廃炉作業そのものに支障が出るおそれもある。このため、国と東京電力は処理した水を海洋放出することを選択肢の1つとして検討している。
こうした中、先月、処理水の約8割でトリチウム以外にも排出基準を超えるヨウ素やストロンチウムなどの放射性物質が含まれていることが明らかになった。
福島県議会では、海洋放出などについては慎重に決めるよう国に求める意見書を今月3日、全会一致で可決した。このまま海洋放出を認めれば、漁業などに深刻な風評被害をもたらすことは必至だ。
廃炉のカギを握るのは技術開発だけではない。地元、福島の住民に対し、廃炉の進め方と環境に与える影響などを丁寧に説明し、理解を得ることが何よりも求められている。
齋藤泉(TBS科学担当解説委員)
経産省、文科省、外務省など10の省庁を担当。先端技術、ロボット、次世代エネルギー、情報通信など取材。東日本大震災後は福島第一原発の廃炉の現場取材を継続。趣味はジャズと映画鑑賞。合気道二段。